今時プラトニックな彼女 1
「お前らついに付き合い出したんか?」
「おお。まあな」

 友人の一人でたまたま同じアパートに住んでいる雄二に聞かれて、俺はニヤけそうになる顔を必死で抑えながら答えた。
 1週間前、片思いだった同じ学科の春田理香子に告白してOKの返事をもらったのである。
 大学2年の3月、やっと俺にも春が来たか。
 高校2年の彼女以来、浮いた話がなかったので約4年ぶりの彼女だ。
「しかし、お前があの理香っちを手に入れるとはな。誠一たちが聞いたら悔しがるぞ」
「失礼な。俺はあいつらみたいに性欲の塊じゃないんだよ。純粋さが最後には勝ったのさ」
「へー…。とか言ってもうヤッってたりして」
  ばーか。俺はじっくり攻めるタチなんだよ、と笑いながら言ってやったが、理香子に言われた言葉を思い出して少し暗い気持ちになった。

 理香子は大学入学当初から男子生徒の間で人気があった。
 男女誰とでも訳隔てなく上手く付き合える社交性や、薄化粧でも十分きれいな整った容姿が受験から解放された若者たちの心を惹きつけた。
 飲み会では、理香子を狙う先輩やクラスメイトが隣に来て、メールアドレスを交換していた。調子のいい雄二に連れ添って、俺も何とか彼女のアドレスを手に入れることが出来た。
 そんな理香子を妬む女子も少しはいただろうが、彼女は不思議なことに男子に告白されても付き合うことがなかったので、女同士の醜い争いは起こらなかった。

 俺は彼女が、学科一ハンサムな誠一という男と付き合うかと思っていたが、 ある日誠一が「理香っちに振られた」と嘆いているのを聞いて驚いたような嬉しいような微妙な気持ちになった。
 理香子に憧れていた俺だけど、彼女と二人きりで出かけるようなことは出来なかった。奴らと同じように振られるのが怖かったのである。 振られる位ならただの友達でいた方がいい。当たって砕けろの考えで次々とアタックしていく男子たちと違って、俺は何て臆病者なんだろう。

 大学2年の後期にはよくつるんでいた男友達は彼女ができたり、バイトに明け暮れていて、遊ぶ機会が少なくなっていった。
 代わりにアパートが割と近い、理香子とはよく会うようになった。
 雨の日は彼女のアパートまで車で送っていったり、近くのファーストフード店で食事を共にしたり。って、俺はアッシー、メッシーか。
 それでも憧れの理香子と一緒に過ごす時間は何よりも楽しかった。 お互いの家族のこと、趣味のことなど少しずつ知ることが増えていって、理香子も俺に親近感を持っているように思う。
 こうして理香子と接していると、明るくて気が効いて適度にドジで男女共に人気があるのがますます分かった気がする。
 ただ、この前のドライブで信号待ちの時に、「周りの友達みたいに恋愛できるのかな?」と、寂しそうに呟いた一言が気になった・・・。

◇ ◇ ◇

 寒さが幾分か和らいできた3月の半ばに、夜景が綺麗に見える山に理香子とドライブに行った。 最近好きになった歌手の新曲を聴きながら、軽快に車を走らせる。
 駐車場に着くと展望台まで歩いて行き、目下に広がる街の灯りを眺めた。
「綺麗だね」
「でしょ。この前雄二たちと来たんだ」
 暇な時にダチと行く大型ショッピングセンターの灯りも、橋のライトも、遠くの方で小さくゆらゆらと輝いていた。 はしゃいでいる理香子を見て一安心しているその時、ぴゅーっと一際強い風が吹いた。
「寒くない?」
 ドキドキしながら理香子の肩をそっと抱いてみる。
「大丈夫。ありがと」
 男子達を魅了するあの顔でニコッと微笑むと、彼女は俺の体に頭を持たれかけてきた。
「何か仁君と一緒にいたら落ち着く」
「そう?それはいい意味にとっていいのかな?」
「うん」

 理香子は一体どれだけ沢山の男とこんなシチュエーションを経験してきたのだろう。今の状況も彼女にとっては取るに足りないことなのかと思うと自信を無くしそうになったが、1ヶ月前からの決意を思い出す。一度きりの大学生活だ。言わなくて後悔するよりは言って失敗した方がいい。
 肩から手を離すと理香子の方を向いて立った。軽く深呼吸して覚悟を決めた。

「俺、理香っちのことが好きだ。1年の時からずっと好きだった… 「俺と付き合って下さい!」
 お見合い番組のようにお辞儀をして手を差し出していると、沈黙の時間がとてつもなく長く感じられる。
 理香子のひんやりとした手がそっと触れて、俺の手を握った。
「いいよ」
「ま、まじで……?」

 やっと俺にも春が来たか!?それも今までで一番スペシャルな春が。

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