今時プラトニックな彼女 2
 カーステレオから流れる歌が俺の勝利を祝福しているようだ。
 浮かれている俺を尻目に理香子が静かに口を開いた。
「うちの家ね・・・厳しいんだ」
「そうなの?お父さんは大学の教授だったっけ?」
「うん。それで言わなくちゃいけないことがあるんだけど…」
 理香子が緊張した面持ちになるからこっちまで身構えてしまう。
「なに…?」
「言いにくいんだけど、その……エッチなこととかしちゃダメなんだ」
「え?」
 エッチなことってどういうこと?と、軽々しく笑って聞けるような雰囲気ではなかった。
 彼女のお父さんは大学教授、お母さんは弁護士、お姉さんは医学生というエリート一家らしい。 うちのようなごく普通の会社員の家庭とは家柄が違うのだろうか。
 彼女の話によると付き合う男性と婚約するまでは「そういう関係」になることは許されないそうなのだ。

 正直言うと俺はまだそっちの経験がない。高校生の時に付き合った彼女とはキス止まりで終わってしまったし。
 今まで童貞だったやつも、大学生になれば彼女ができて経験するということも珍しくない。自分も次に彼女ができれば当然そうなることと思っていた。
 片思いの頃から理香子を想って自慰することも少なくはなかった。大好きな人とようやく付き合えたのにセックスできないなんて…。
 男子から人気がある理香子がまだ経験がないということにも驚き、少し感動を覚えたが、俺も理香子とすることができないという状況には失望してしまった。
 それでも理香子を好きな気持ちが変わるわけではないのだけれど。

 最初にそんなことを言われてしまったので、彼女と会う時は必要以上に常に気を遣っていた。車の助手席に乗せる時も彼女に触れないように両手でハンドルをきっちり握り締めてしまう。
 セックスさえしなければ手を繋ぐ位どうってことないのかもしれない。それでも彼女の体に触れることを躊躇うのだった。
 そんなことを考えていると態度もよそよそしくなってしまう。
 折角付き合えたのに気まずくなるなんて嫌だ。 もやもやとした気持ちに耐えられなくなった俺はある日彼女に尋ねてみた。

「キスもしちゃダメなの?」
「それ位なら別にいいと思う…」
「そっか」
 頬を赤らめている彼女を愛しく思った。クラスの男子達が言う下ネタを笑ってあげている彼女だが、 こんな風に恥らう表情はきっと俺にしか見せてくれないだろう。
「それで仁君、元気なかったの?」
「い、いや、そんなことないっすよ」
「ふふ。面白い、動揺してるー。でもこれからも何か聞きたいことあったら遠慮なく聞いてよ」
「分かった。ありがと」
 彼女を作るだけなら意外と簡単なことなのかもしれない。けれど良好な恋人関係を維持させるのは難しい。
 相手の心に踏み込みすぎると失敗してしまうから、遠慮してた方が楽だって思ってしまう。 でも、逃げないで正面から向き合わなくちゃいけない時もあるんだ。

◇ ◇ ◇

 初めてのキスは鴨川公園に行った帰りの車の中だった。付き合い始めてから5ヶ月のことである。
 この頃にはお互いを「仁」「理香子」とちゃんと名前で呼べるようになった。俺達もなかなかやるじゃないか?って今時中学生でもやっているだろうな。
 手を繋いで公園を散策し、帰りは美味しいラーメン屋さんに寄り二人でとんこつラーメンを食べ、楽しい時間は十分過ごしたはずだ。
 理香子のアパートの駐車場に車を止めたが、このまま別れるのは名残惜しかった。

「帰したくない」
「また明日会えるよ」
 子供じみていて情けないがワガママを言ってしまう俺を理香子は優しくなだめた。
 雰囲気的にそうなるのが分かっていたのだろうか、体を俺の方に寄せてきた。
 俺は彼女の肩を抱き、思い切って彼女にキスをした。唇に触れた瞬間、彼女の体がぴくりと反応するとそっと目を瞑って唇を委ねてくれた。
 唇をそっと合わせるだけの軽いキスだったが、彼女の唇はとても柔らかくて素晴らしい感触だった。
 彼女のつけていたリップクリームが唇に付着したがいつまでも洗いたくなかった。
 初心な俺はそれだけで勃起してしまい、急いで家に帰ると、ズボンとトランクスを脱ぎ捨てた。

←back     next→

愛しの彼といつもより♡なHを

女性のための官能小説・目次