海に抱かれて 1 (失恋旅行の続編) 初めて一人旅をした大学2年生の夏休み。 沖縄に来て1週間が経つ。 相変わらずあたしはあの古びた素泊まりの旅館に泊まっていた。 節約のために、1泊1500円の個室から1000円のドミトリー形式の相部屋に移った。 『もう誰も信じられない』と思いながらも、心の底ではまた誰かの温もりを求めていた…。 「今日暇だったら体験ダイビングに来ない?」 午前8時半、翔さんからのメールを見て飛び起きた。 「ぜひぜひ!行きたいです」 さっそく返信する。 「10時からだから。急いでね」 まだ寝ている人達を起こさないように静かに支度をした。 翔さんに教えられた通りに、バスでダイビングショップまで向かいながら、会える期待に胸を膨らませていた。海沿いのバス停で降りてから徒歩で5分。あの夜に2人で泊まったショップが見えてくる。 中に入ると翔さんは忙しそうに受付けで働いていた。ひと段落ついて、こっちに気付くと「よっ」と言って笑顔を見せてくれた。 「こんにちは…」 顔を合わすのが何だか照れ臭い。 体験ダイビングの申込書に記入して、翔さんの説明を受けた後ウェットスーツに着替えた。近くの海の浅瀬でフィンの動かし方や呼吸などの練習を行った後、高速ボートで近くの島まで向かった。 一緒に潜るのはあたし以外に5人。カップルが一組と友達同士だと思われる女の子が3人いた。 「今日は綺麗な女の子達がいるからきっと魚も寄ってきてくれますよー」 「あはは」 翔さんったら営業スマイルで女の子の前で調子に乗っている。 (・・・あたしのことも他のお客さんと同じように思っているのかな-----) あたしは女性インストラクターに手伝ってもらって器材を装着した。 準備が出来ると透き通ったスカイブルーの海に入っていった。 海の中はまるで別世界だった。色とりどりの珊瑚礁のそばで熱帯魚が気持ち良さそうに泳いでいた。 (・・・ちっちゃい魚、可愛い・・・あ、クマノミがいる!) 翔さんに手を引かれてドキリとした。 彼が指差した方向を見ると、ウミガメが泳いでいるのが見えた。目に映る何もかもが幻想的で、ダイビングにはまる気持ちがよく分かった気がする。 慶良間の海を堪能すると、浜辺でおやつを食べたり浅瀬で軽く泳いだ後、ショップへ戻っていった。 「ありがとうございました!」 「感動しましたー」 インストラクターの人達に、次々とお礼を言う。 「はーい。また遊びに来てね」 他のお客さんを見送ると翔さんがこっちに近づいてきた。 「どうだった?」 「最初は怖かったけど綺麗で楽しかった」 「良かった。楽しんでくれたみたいで。俺も最初はダイビングなんて金かかるし、面倒臭そうって思ってたけど、一度潜ったら止められなくなったよ」 「ほんとに好きなんですね。仕事してる時の翔さん、生き生きしてる」 「ははっ。そうかな」 「あの…誘ってくれてありがとうございます…。じゃ、これで」 あたしは早々と帰ろうとしていた。もっと沢山一緒に過ごしたいのに、自分から食事に誘うこともできない勇気のない女だ。 「あっ、彩加」 「はい・・・」 今日初めて名前を呼んでくれた・・・。 「明後日仕事休みだから、時間あったら2人で潜らない?」 「え?2人だけで?」 「うん。秘密の場所に連れていってやる」 翔さんのとびきりの笑顔を見るとトクンと胸の奥の方が反応した。 next→ 愛しの彼といつもより♡なHを 女性のための官能小説・目次 |