海に抱かれて 5

 翌日の夜、迎えに来た彼の車に乗り込んだ。運転席側の横顔が緊張する。
 車を発進させると翔さんが口を開いた。
「来てくれないかと思ったよ」
「最後だから…」
 あたしは心を閉ざしたままそっけなく答えた。
 車の中は以前のようにお互い軽口を叩けるような雰囲気はない。楽しめないと分かっているのに何をしにここまで来たのだろう。
「ご飯食べた?」
「まだ」
「じゃあ、最後に沖縄料理食べていく?」
「うん、どこでもいいよ」
 翔さんと初めて出会ったあの居酒屋に連れて行ってくれた。
「俺は酒飲めないけど、好きなの頼んでいいよ」
「ありがと。今日は遠慮しとく…」
「そっか…。…明日帰るんだね」
「帰って色々することがあるから・・・」
「出来るならここにもっといて欲しいんだけど・・・」
「・・・・・・・」
「話なんだけど。もしかして絵里ちゃんと二人でいるところ見た?」
 (・・・何だ。自分でも分かってるんだ-----)
「・・・別に」
「あの日、俺、一人で飯食いに行ってたら、たまたま絵里ちゃんと彼が店に来たんだ。で、しばらく一緒に食べてたんだけど、彼の方に急用ができたみたいで先に帰った。それで絵里ちゃんを車で送って行った。…それだけ」
「そうなの・・・」
 どうやらあたしがしていた悪い想像とは違ったようだ。でも、もう絵里と会っていた理由なんてどうでもいい。最後に浮気じゃなかったと知って、少しは良い思い出になるだろうけど。
「言うべきか迷ったけどさ・・・彼が浮気してるかもって悩んでたんだ。それで話聞いてたらつい遅くなってしまった」
「もういいよ」
「良くない。彩加は一人で終わらせようとしてないか?」
 すばり言い当てられてドキリとする。
「だって上手くいかないよ。東京と沖縄なんて遠いでしょ?」
「最初はそう思ってた。でも連休が取れたら会いにいく。1泊でも。東京まで飛行機で2時間半だろ?中途半端な遠距離恋愛カップルよりよっぽど早く行ける」
「そんなの最初だけだよ。会えないのって辛いし、そのうち面倒になるかも…」
 必死になって説得する翔さんに対して、あたしは否定的な言葉しか出てこない。
「まだお互いのことほとんど知らないのに…。このまま諦めるなんてしたくない」
「彩加が俺のこと嫌いになったっていうならどうしようもないのかもしれないけど、それでも・・・」

 騒がしい店内の中、二人の空間だけは沈黙が続く。 次は何を言おうか必死で考えている雰囲気が伝わってくる。
「お願いだから3ヶ月間付き合ってくれないか?それで嫌になったら諦めるよ」
 翔さんの提案に思わず笑ってしまった。
「え?3ヶ月だけでいいの?」
「良くない。だから、終わらせないように努力する」
 翔さんの必死の説得を見ていると可愛くなってしまった。あたしは用意していた言葉をやっと伝える。
「・・・分かった。翔さんの押しの強さには負けたよ」
「やった!!付き合っていいの?」
 あたしは静かに頷いた。
 本当はあたしだって終わらせたくなかった。一度好きになった人をそう簡単に忘れられる訳がない。 前の彼氏にも言われたけど、好きな人の前で素直になれない本天邪鬼な女だ。
 その後は、静かだけど和やかなムードで食事を終わらせて店を出た。
「旅館に荷物とりにいこう。今日は俺の家に泊まって欲しい。それでいい?」
「いいよ」

 家に辿り着く前から既にそういう雰囲気が流れていて、アパートの階段を登る足元がふら付いた。 シャワーを浴びて、シングルベッドに二人で入って抱きしめ合った。
 あたしが東京に帰ってしまうと、しばらくは会えないだろう。もしかしたら、今夜は二人で過ごす最後の夜になるかもしれない。
 朝まで時間はたっぷりある。 どちらから最初に仕掛けてくるか駆け引きをしているようで、お互い自分自身を焦らしていた。 翔さんの胸から鼓動が伝わってくる。
 一つ気になることを尋ねてみた。
「今日はアレ持ってるの?」
「ああ、当然…。この前は出来なくてほんとは苦しかった。あれから一人で…。なんて、付き合ったばっかりの彼女に言う話じゃないよな」
 翔さんが言いたいことは大体分かった。あたしだって旅館で皆が寝静まってから何度下着の中に手を入れようとしたことか…。
「帰ってもしばらく忘れられないようにしてやる」
「しばらく?その後は忘れていいの?」
「ダメ…。じゃあずっとだ」
 彼の唇が触れる。
 あたしの体は翔さんの肌と手と口によって、トロトロに溶かされていった。沢山の愛液がシーツに零れ落ちてシミをつくる。「電気を消して」と言うのも忘れる位、性急に求め合った。
 彼の唇はあたしの濡れた泉をますます潤し、あたしの唇は彼のいきり立った棒を咥えると、低い声を出して鈴口から感じている証拠の液体を漏らした。
 二人の間に言葉は必要なかった。正確にはため息と喘ぎ声以外は…。
 お互い欲しくて堪らなくなると翔さんが体を離した。 きちんとコンドームを装着してくれてた。車で抱かれた時は最後までしたかったけど、軽はずみに‘外出しで避妊’なんてしなくて良かった…。
 あたしの足を開かせ入り口に宛がうと、待ちわびていたものが挿入される。 奥まで入るとキツい圧迫感に幸せを感じた。翔さんがゆっくりと抽送を始めると、我慢していた声が漏れた。
「はぁ・・・あぁ・・・・」
「覚えておくよ。この温もりも、色っぽい声も・・・」
「あ・・たしも・・・」
 丁度良い位置に翔さんの根元が擦れ合って、あたしは一気に高まってきた。 冷静にリズムを合わせられなくなり、絶頂を先延ばしにすることだけに神経を注ぐ。
「ね・・・ねぇ、あたしやばいかも・・・」
「いいよ。気持ちよくなって」
「ちょっと止めて」
 翔さんは強い力でずんずん連れて行こうとする。どんなに逃げようとしても、気をそらして我慢しようとしても、自分の体は止められなかった。
「・・・・・や・・・あ、あぁ----------------」
 背中に爪を立てながら、先に達してしまった。 翔さんはまだ余裕の表情で、一人だけ感じてしまったみたいで何だか悔しい。 ・・・と思っていたら、恥ずかしい事実を聞かされた。
「昨日2回抜いといて良かった」
「・・・そんなこと言わないの!」
「あはは。ごめんごめん」
 翔さんが一人エッチする姿を思い浮かべてしまい顔が熱くなった。
 少し休むと背中を上にされ、後ろから攻め立てられた。 獣のようなスタイルであたしも翔さんも頂点まで上り詰めた。
 深夜まで求め合って限界まで疲れた頃、やっと体を休めた。

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