海に抱かれて 6 「ほんとに明日帰るのか?」 寂しそうな声に思わず決意が揺らぎそうになる。 「・・・うん。もう決めたから。心配してくれてた友達にも会いたいし」 「そっか…。彩加は意思が強いんだな」 「そんなことない。頑固なだけだよ」 そうかもな。と顔を見合わせて笑った。 カーテンの隙間から眩しい陽の光が差し込み、お別れの朝がやって来た。今から数時間後には海を越えて、彼から遠い遠い地に帰ってしまう。 布団の隣には翔さんの姿はなかった。 キッチンで何か料理しながら翔さんがこっちを向いた。 「おはよ。9時半には出るから早く準備してね」 「ちょっと早くない?搭乗は12時からだよ?」 「空港に行く前に寄るところがあるから」 「どこ行くの?」 「ちょっとね」 用意を済ませると翔さんの車に乗り込んだ。車は海沿いの道を抜けると繁華街に入り、市営のコインパーキングに止まった。 「ちょっと歩くけど着いてきて」 翔さんは一人で先に歩いて行くと、ある店に入って行った。あたしも急いで後を追う。 ガラスのショーケースの中には指輪やネックレスが並んでいて、小さな石が光を放っていた。 ここは・・・? 「ペアリング買おう?嫌だったらいいけど・・・」 「え・・・!?」 翔さんの突然の提案にびっくりしてしまった。 あたしはペアリングなんて着けるのも選ぶのも初めてで戸惑いを隠せない。 「しょうさーん・・・」 どれにしたら良いのかさっぱり決められないあたしは、助け舟を求めた。 店員が営業独特の笑顔でこの指輪はこうで、と一生懸命説明してくる。 10本位はめてみただろうか。女性の方にはアクアマリンの石が付いていて、二つ合わせると細長いハートの形になるシルバーの指輪に決めた。 「これに文字入れてもらえます?」 「はい。お渡しするまでに、1週間程お時間かかりますが宜しいでしょうか?お店まで取りに来て頂いても構いませんし、ご自宅に郵送することもできます」 「1週間か…。彩加、自宅まで送ってもらうけどそれでいい?」 あたしは頷いた。 今すぐにでも欲しいけど、出来るのを楽しみに待つことにしよう。 空港に到着すると、思い出が沢山詰まったスーツケースを車から運んでくれる。 あたしがカウンターで搭乗手続きをするのを翔さんは後ろから見守っていた。 「ヤバイ・・・。見送るのってめちゃくちゃ寂しいかも」 「じゃあね。ありがと、楽しかった」 あたしは涙を堪えて言った。 優しいあの目で翔さんが言う。 「俺も…。気をつけて帰れよ」 出発口に入り、手荷物検査を終えるともう戻れない。列に並びながら後ろを振り向くと、翔さんが遠くで大きく手を振っていた…。 〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜* 新しく始めたバイトからの帰り道。地下鉄を降りて人ごみに揉まれながら家路についた。 ここには青い海も、潮の香りも、開放的な雰囲気もない。 パラダイスのような時を過ごした1週間前を思い出しては一人で溜め息をつく。 「ピンポーン・・・宅急便でーす」 小さな小包が届いた。 開けると中にはキラキラ光る指輪が入っていた。 今頃彼も同じように手にとってあたしのことを想ってくれているだろうか。 「Sho to Sayaka」の文字が刻印された指輪を薬指にそっとはめた。 --------------End-------------- 【あとがき】ゆきずりの関係からくっついてしまった二人。この後上手くいくんでしょうかね・・・^^;彩加は絵里には何も言わずに帰ったのか!?ペアリングを買う話を考えていたら、絵里のことはすっかり忘れてしまいました(ダメ著者) ←back 愛しの彼といつもより♡なHを 女性のための官能小説・目次 |