恋のリハーサル 1 三井翼18歳。彼は今人気が急上昇している高校生の俳優である。 ある日、翼は駅からの帰り道を重い足取りで一人歩いていた。 1時間程前までテレビ局で、ドラマの撮影の打ち合わせがあった。 初めての連ドラ主役に抜擢され、期待と少しの不安があったが、台本を見てからはその不安が大きいものとなった。 電車に乗っている時から何度溜め息をついたか分からない。 家に帰っても一人で思いつめるだけだろう。 (誰かに相談したい・・・) 辿り着いたのは自宅近くの春菜の家だった。 ‘ピンポーン’ 「はーい」 「あ、こんにちは」 「あら、翼君、いらっしゃい。春菜なら部屋でごろごろしてるわよ」 「どーも。お邪魔します」 女の家に入るというのに手慣れたものだ。それもそのはず。 翼と春菜は小学生の時から仲良しで、お互いの両親公認の気のおけない異性の友達である。 2歳年上の春菜が大学生になってから頻度が少なくなったものの、今でもたまにお互いの家で遊ぶことがある。 ‘コンコン’ 「はい?」 「俺。・・・入っていい?」 「ちょ、ちょっと待って」 中から春菜の慌てた声が聞こえて、ガサガサ音を立てて何かを片付けている。 (ふーん、あいつにも見られたくないものがあるんだな・・・) 「いいよー」 その返事を聞いて翼が部屋に入ると、春菜はテレビを見ていた。 相変わらずジーンズにTシャツというラフな格好をしていたが、いつもと顔が違う気がする。化粧をしているようで少し大人っぽくなっていた。 リップグロスを塗っているのだろうか。 翼は春菜の艶めいた唇にドキッとした。 「何か隠してるから、ついにお前にも彼氏ができたのかと思った」 翼は探りを入れてみた。 「友達と遊んで来たから着替えてたのよ。ま、男友達もいたけどね!」 「ただの友達だろ。大学に入ってもまだ彼氏できないのか・・・」 「あんたと違って彼氏ぐらい居たことあるんだから」 春菜は勝ち誇った顔で言った。 翼はそんなの大昔の話だろ。と言いたくなったが、口で春菜に勝てる訳がないので止めておいた。 今日は口喧嘩をして来た訳じゃない。 「あたしも最近忙しいんだから、あんたの相手してる暇ないのよね。 あんたもドラマの撮影とかで忙しいんじゃないの?」 「まあ、今度は初主役だから大変そうだけどな・・・」 翼の悩みの種になっているのは、そのドラマの内容だった。 初めての主役でプレッシャーもあるというのに、キスシーンと軽いベッドシーンがあるのだ。 助監督から「キスしたことあるよね?」と聞かれ、翼は思わず「はい」と答えてしまった。 経験のない俺にどうやってキスをしろと?素直に経験ないって言えば良かった・・・と何十回も後悔した。 (相手役の女優には軽蔑され、周りからはお子さま扱いされたらどうしよう・・・) 「なあ」 「何?」 テレビを見たまま面倒臭そうに答える春菜。 「春菜ってさー、キスしたことある?」 「・・・は?何であんたにそんな事言わなきゃいけないの」 「付き合った事あるんだからあるよな・・・」 翼がしょんぼりとした様子で呟くと、春菜はさっきまでのやる気ない態度とは変わって、好奇心に満ちた目で尋ねて来た。 「なになにー?キスの悩み?お姉さんに言ってみなさい」 「う・・・どうせ、からかわれるだけだから言わない」 「言ってみなきゃ分からないよ。あたしだって翼には幸せになって欲しいって思ってるから」 「・・・あっそ。その理解者ぶった言い方、気にくわねえ・・・」 翼はヤケになって、春菜にキスシーンとベッドシーンの演技が心配なことを正直に打ち明けた。 「キスシーンね・・・。経験ない人にやれって言うのは酷かもね。 今からでも遅くない、彼女作りなさい」 「やっぱりな。相談して損したよー」 翼は床に寝転んで天上を見上げた。 (家に帰ったらネットで調べてみるか・・・) 「ねえ、そのキスシーンってどういう状況なの?」 「どういうって、さっき台本もらったばっかりだから・・・」 翼はカバンの中から台本を探した。 「あたしが演技指導してあげる」 「お、お前が?」 「うん。フリだけなら別にいいでしょ?」 春菜はキラキラした目をして、妙に乗り気だった。 春菜は口は悪いが、根はいいやつだ。 元の素材は美人できちんとした格好をすれば男受けする、 この年上の女に教えてもらうのも悪くないなと思った。 翼が台本を見ながら台詞を言う度に、春菜の演技指導が入る。 別にキスの所だけでいいのに・・・と翼が言うと、『女の子は男がキスの前に言う台詞や表情も重要視するの』と力説された。 「そうなの?」 翼は指導されながら苦笑した。 「ほら、もうちょっと真剣な目して!もっと強引な感じで!」 このシーンが本当に強引な感じで良いのかは知らないが、今は春菜の言う通りにしておいた。 春菜の指導を受けていると、そのうち翼も演じるのが楽しくなってきた。 「恵理花・・・」 彼女役の名前を呼んで、翼にぐいっと引き寄せられた途端、 春菜は不覚にもドキッとしてしまった。 (こいつ、いつの間にこんなに男らしくなった・・・?) あとはキスの部分を残すのみとなり、二人とも悩んでしまった。 「どうしよ・・・」 「取り合えずフリだけね」 春菜は翼に「目をつぶって、ちょっと顔を斜めにして、鼻がぶつからないように」等と指導した。 (やり方を知ってるって事は経験あるんだよな・・・) 春菜が過去にキスしたことを想像し、翼は少し嫉妬した。 「寸前で止めてよ」 「分かってるって」 二人の間に少し緊張が走る。 「恵里花・・・」 春菜の肩を抱き、目をつぶって言われた通りに顔を近づけた。 (どこまでやればいいんだ・・・) ・・・・・・・ガツンッ!! 突然翼の唇がどこかにぶつかり、目を開けた。 「イタっ!?」 春菜の声が聞こえて、翼はしまったと思った。 「あ」 「あーーーーー!あんた触ったね」 「しょうがないじゃんよー。目閉じてるんだから分かんねえよ。止め時ってのが」 そんな事を言いながら、心の中では春菜にぶつかってラッキー!と思っていた。 「ああ、もう最悪ー。あたしの貴重なキスが・・・」 春菜はぶつぶつ文句を言いながらベッドの上に寝転んだ。 実は春菜はドキドキしていたのだが、嫌そうな表情を作っていた。 翼はというと、一度ぶつかったことをいい事に、本番を練習させてくれないかと思い付いた。 嫉妬したり根に持ったりする同級生の女友達じゃなくて、さっぱりした性格の春菜だからこそ頼めること。 しかも、春菜のことは友達(幼馴染)として、ある程度好意を持っているから。 これが恋なのかどうかは分からないけれど。 「なあ、ここまでやったんだからさ・・・」 恐る恐る春菜に切り出してみる。 「・・・何?」 「ほんとのキスの練習させてくれない・・・?」 「は?何であたしがあんたと・・・」 予想通りの答えだったが、翼は諦めなかった。 「お願い、春菜。俺ほんとにしたことがなくって・・・。お前しか頼める人いないんだよ」 翼のファンの中には、OLや自分の母親位の年の女性も沢山いる。 彼のきりっとした目つきや、時折見せる子供っぽい笑顔や仕草が母性本能をくすぐるのだ。 「ただの演技だから、終わったらこの事は忘れるから・・・」 「えーーー・・・?」 春菜も情けないことに、そこまで頼まれると心が揺らぐのを感じた。 生意気なやつだが、人気のある彼と幼馴染である事を秘かに自慢に思っていた。 「しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ・・・」 「やった。春菜、ありがとね」 翼の満面の笑みがまたもや春菜をドキッとさせた。 (こいつ、ずるいわ・・・) 「恵里花・・・」 何度この台詞を言っただろう。 しかしこの後にするのは本当のキスシーン。 (翼相手に何緊張してんのよ・・・) 翼に引き寄せられて春菜は覚悟を決めた。 翼の顔が迫ってくる。 いつもの子供っぽい翼とは違う目つきが春菜の心を射止めた。 ちゅっ・・・ 春菜はまるで本物の恋人とキスしている気分になり、戸惑いを覚えた。 (初めてのくせに上手・・・) 数秒が経ち、翼は離すどころか、強く抱きしめてついばむようなキスを繰り返した。 翼の表情は、完全に女を狙う時の男の顔になっている。 初めて女の柔らかい唇に触れたので興奮して止まらなくなったのだ。 キスの嵐に危うく流されてしまいそうになる。 「ん・・・っ、ちょっ、翼!」 春菜は力を込めると翼をベッドの方に突き飛ばした。 「うっ・・・」 「どこまでやってるの!?」 「はは。ごめん、つい成りきってやっちゃった」 いつもの翼の顔に戻ってほっとした。 「そういうのは彼女とやりなさいよ」 顔を赤くした春菜が一人で怒っている。 「春菜・・・照れてないか・・・?」 翼がそう言うと、顔面に枕が飛んできた。 「いでっ・・・」 next→ 愛しの彼といつもより♡なHを 女性のための官能小説・目次 |