1クールの恋人 2 (関連作品:恋のリハーサル)
翼との撮影がある日はいつも、結衣は朝からウキウキしていた。
仕事の行き帰りに着るだけの私服や髪型にも手を抜かないように気をつけた。
どんなに寝不足で体が辛くても、翼に会うと自然とテンションが上がり、演技に集中しようと頑張れた。
恋の力は本当に大きいと感じる。
二人の間に進展はあったかというと、全くない訳ではなかった。
互いの携帯のメールアドレスを交換し合うことが出来たのだ。
しかし、翼からのメールはほとんど来なかったし、結衣も遠慮して送ることができずにいた。相手は若手ではトップクラスの人気俳優であり、結衣よりもさらに多忙な毎日を送っているのを知っていたから。
いつも優しくしてくれるのは、楽しそうにふざけ合えるのは、単に気の合う仕事仲間だから?
やっぱり仕事では公私混同してはいけない?
でも、この切ない思いは、今にも溢れ出しそうな程膨らみ、甘く熟している―。
夜遅く、マネージャーと一緒に帰宅する車の中で、結衣は一人溜め息をつくのだった。
撮影は終盤に差し掛かり、あるシーンの撮影が行われようとしていた。
スタジオにはシングルベッドが置かれた部屋がセットがされている。
初めて二人で夜を迎えるシーン。
翼と結衣はもつれるようにベッドに倒れこみ、キスを交わす。そして翌朝、シーツにくるまって二人で話をするという内容だった。
全裸にはならず、翼は上半身裸だが、結衣はベアトップを着て、脱いでいるように見せかけるというものだった。
それを知った結衣は少し落胆した。脱げばどうにかなる自信がある訳ではないが、少しはドキッとさせることができるだろうに。
「よろしく・・・お願いします」
翼は結衣に妙に畏まって声をかけると、照れ臭そうにベッドの前に立った。
結衣と目が合うと優しい表情になった。
心の中で「大丈夫。結衣ちゃん」と言ってくれてるような気がする。
本番が始まり、結衣はベッドに押し倒された。
何度も何度も翼と唇を重ねた。やがて首筋にもキスが降りてくる。
実際には触れていないのに、結衣の体は彼の吐息を感じるだけで首筋が熱くなった。
何だかおかしい。声が漏れそうになるのを必死で我慢し、鼻息が荒くならないようにするのが大変だった。
「カット」
どうやら監督が納得できなかったらしい。
テイク2。
再び抱き合う。彼の唇の熱さ、彼の匂い、彼の力強い腕、その全てが結衣を翻弄した。
決して触れられることのない部分、秘所までもが熱く反応していた。
結局、2度目も監督からのダメ出しを受けてしまった。
3度目の正直。
あたし達は愛し合っている。結衣は自分に言い聞かせた。
唇が重なる度に、全身が震える程の快感が結衣を襲う。抱き合う前の翼の鋭い目つきといい、キスといい、何てセクシーなんだろう。
もっと翼くんが欲しい。裸で抱いて欲しい―。
本気でそう思った時、結衣の奥から温かい液体が体外に流れ出た。
監督からやっとOKが出た。 「長くなっちゃて、ごめんね」
すまなそうな顔をして翼が謝ってきたので、
「いえ・・・私が上手くできなかったから・・・ごめんなさい」 と、慌てて結衣の方も謝った。
結衣はそそくさとベッドを降りようとしたが、翼はうつ伏せのまま起きようとしない。結衣が不思議に思っていると、翼は苦しそうな声を出した。
「いたた・・・何かお腹痛くなっちゃった・・・」 「大丈夫ですか?」 「うん・・・ちょっと休めば治ると思う・・・」
少し休憩した後、翼の体調が回復したので、朝を迎えるシーンを無事に撮り終えた。
家に帰ってからも、結衣は翼のことが気になっていた。あの後、無理をして撮影を続けたが、本当に大丈夫だろうか。
連日のハードスケジュールのために過労で倒れたりなんかしたら・・・。
気がつくと携帯を握りしめていた。
『体調どうですか。ゆっくり休んでください』
翼の負担にならないように、返信を要求させない短いメールを送信した。
数分後、『大丈夫!心配かけてごめんね。あの時別にどこも悪くなかったけど、起き上がれなくなったんだ。男の生理現象ってやつで・・・(汗マーク)』
メールを読んで内容を理解した結衣は、一人で赤面した。
生理現象ってことは、あの時、翼くんのが・・・おっきくなってたってことで・・・。
『そっかあ。男の人って大変だね(笑)それじゃ、おやすみなさい』
無視するのも悪いと思い、返信しておいた。
嬉しい・・・。私だってあの時感じてたんだよ。
蕩けそうになったベッドシーンを思い出しながら、結衣は眠りについた。
◇ ◇ ◇
撮影が始まって約3ヶ月後、ついにクランクアップを迎えた。
「お疲れ様でした」
拍手と共に、翼と結衣に豪華な花束が渡される。
「皆さん、長い間ありがとうございました。初めての主演で至らない所も沢山ありましたが、皆さんに支えられて無事に終えることができました。私にとってとても貴重な経験になりました・・・本当に感謝しています」
結衣はこれまでの事を思い出し、涙ぐみながら挨拶を終えた。周りから拍手が沸き起こり、翼もその様子を温かく見守っていた。
初主演の仕事が翼くんと一緒で本当に良かった。翼くんがいたから最後まで続けられたんだよ。結衣は翼が挨拶しているのを聞きながら、そっと心の中でお礼を言った。
その夜には打ち上げが盛大に行われた。
結衣は、最後だから翼と沢山話しておきたいという気持ちがあった。それなのに翼は、次の日の仕事が早朝からあるということで、早めに帰ってしまうと言い出した。
結衣はショックを隠しながら翼に挨拶した。
「ありがとうございました。一緒にお仕事できて嬉しかったです」
「俺の方こそありがとう。結衣ちゃんと共演できて楽しかったよ。またどこかで共演できたらいいね」 「はい・・・」
翼は皆に見送られながら先に店を出て行った。
終わった――。
結局、仕事仲間以上の関係にはなれないまま、終わってしまった。でも翼くんからすれば普通のことであって、こんなに期待していたのはあたしだけなんだ。
やるせない気持ちを抱えながらも、結衣は愛想を振りまきながら、大人達の饗宴にしばらく付き合った。
翼と会えなくなってからの結衣は、やる気が起きず仕事に打ち込めずにいた。
このままじゃダメになってしまう・・・。
今回のドラマでも見て、気持ちを切り替えよう。危機感を感じた結衣は、オフの日にスタッフから渡されたDVDを見ることにした。
恥ずかしいけれど、自分たちのキスシーンは何度見ても飽きなかった。
情熱的な翼のキスは画面を通しても想いが伝わってくる。
結衣はベッドの上に寝転がって何度も見惚れながら、その時の唇の感触を思い出していた。
出来が気になっていたベッドシーンもようやく見る決心がついた。
自分たちのベッドシーンを客観的に見てみると、実際にされるのとは違う興奮が結衣を襲い、体が熱くなってくる。
結衣はそっと目を閉じると、服の下に手を差し入れた。
ベッドシーンの最初まで巻き戻すと、翼に押し倒されるのを鑑賞しながら自分の胸をやわらかく揉んだ。階下にいる両親に気づかれないように小さくため息を漏らす。
中心の突起は既にピンと堅く尖っていたが、わざと触れないように、手はその場所を避けた。
唇をついばむだけのキスだったが、結衣の頭の中では口腔内に翼の舌が挿入しようとしていた。
ちゅるり・・・
翼は結衣の舌にねっとりと絡めつき、次々と官能のエキスを注入してくる。
いつまでも飽きることなく、翼は結衣の唇を求め続けた。
甘い蜜を貪るように、互いの唇を味わう。
まだ止めて欲しくない・・・。でももっと別のものも欲しい。
翼の唇は結衣から離れると、ゆっくりと首筋に降りてきた。何かの印を刻みつけるように優しく辿っていくその舌は、結衣を焦らしながら胸元にたどり着いた。
「はぁ・・・ん」
我慢できずに結衣は激しく両胸を揉みしだいた。
2つの突起をきゅっと指で摘まんだ途端、体に電流が走った。体を弓なりに反らせ、強い刺激に耐え切れずに下半身を動かしてしまう自分が想像できる。
そして翼は結衣の突起を口で塞ぐ。与えられる刺激を味わいながら、翼にねだりそうになるのを必死を堪える。
こんな自分の体が恥ずかしい・・・。
結衣は潤みにそっと指を入れた。くちゅ、くちゅっと秘所から聞こえる卑猥な水音が、溢れ出した愛液の多さを表していた。
「こんなに濡れてる・・・」
「いや・・・恥ずかしい」
結衣が顔を背けると、翼はますます音を響かせながら結衣に羞恥を与える。
「結衣が欲しい・・・いいよね?」
ずっと待っていたと思われるのが嫌で、結衣はゆっくりと頷く。
既に何の準備もいらない位、充血して膨れ上がっている翼のものが宛がわれる。
そうなっているのは抱き合っている時から分かっていた。あたしが欲しくて堪らない証拠。
結衣は翼に入れられるのを想像して、もう一本指を増やした。さっきよりきつくなる。でもまだまだ。さらに指を重ねた。
3本の指で窮屈になったナカは、ぐぐっと抵抗しながらもゆっくり吸い込んでいった。
翼の太く逞しいものが奥まで入り、ゆっくりと抽送を始める。
キスが上手な彼はやっぱり蕩けるような腰使いをしてくれる。
あたしは彼にナカを掻き回されて感じながら、彼はあたしに包まれておちんちんを肉壁に擦りつけて感じながら、激しく欲望のままに抱き合った。
互いにずっと待ち焦がれていたから長くはもたなかった。ずっとこうやって、互いの秘部をぴったり重ねて、快楽を与え合うことを望んでいたのだから。
あたしはやがて体を硬直させながら、3本の指を締め上げた。
彼もその刺激に耐え切れず、白濁を注ぎ込んだ――。
ことが終わると、DVDは終わっていた。
静かな画面を見ると、楽しかった翼との撮影の日々を思い出しながら涙を流した。
もう終わってしまったけれど、この3か月の間だけは、そこに愛があったと信じたい。
これからもっともっといい仕事をして、次は翼くんと映画で共演してやる。そしていつか本当の愛を手に入れたい。
DVDをケースにしまうと、結衣は次のドラマの台本を読み始めた。
―――――終わり―――――
【あとがき】関連作品「恋のリハーサル」では、翼にはキスの指南役がいてその女性と付き合う・・・という設定になっていますが、今回は彼女のことは触れないようにしました。翼と結衣が本当にエッチしてしまう話も面白そう。でも誠実な翼でいて欲しいので止めようかな^^;
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