20年の時を経て 1

 武田麻衣子は結婚して15年の主婦である。
 子供は中学2年と小学6年の女の子がいる。
 穏やかな瀬戸内海に面した岡山県の倉敷市で生まれ、結婚後もずっとこの地で暮らしてきた。
 ごく普通のどこにでもいる、年を重ねた女性―。
 世間からそう見られることは、平凡に普通の幸せを手に入れて生きることを望んでいた彼女にとって、何の苦痛も感じない。
 しかし、普通とはどのようなことを言うのだろう。
 旦那とは仲が悪いわけではないが、次女が小学生になってからは夜の夫婦生活はほとんどなくなった。
  長年一緒に暮らしていると、パートナーを異性として見れなくなる人は多いことだろう。分かってはいるものの、今でも定期的にベッドを共にする夫婦の話を聞くと、少し妬みを感じることがある。
 やはり女性は幾つになっても、男性を愛し、愛されていたいのだ。家族としてではなく、女性として。

 麻衣子は食事の準備をしながら、リビングでテレビを見ている旦那に言った。
「あなた、私、今日は高校の同窓会があるから少し遅くなるわ。夕飯作っておくけー、子供達と適当に食べなされ」
「・・・・・・」
 旦那はテレビに夢中になっているのか寝ているのか、反応がない。
「ちょっと。聞いてる?」
「・・・ああ」

 これだもの。これが現実。
 私がどこへ出かけようが、全く気にならないようだ。夜遅くなって何かあるかもしれないとは、微塵も思っていないらしい。
 麻衣子は手早く準備を済ませると、寝室で支度を始めた。
 ウエストにピコレースのリボンのついた上品なワンピースを選んだ。子供を産んでも、ほっそりとした体型を維持している彼女にはとてもよく似合っている。
 いつもより念入りに化粧をしながら、久しぶりに友人たちに会えるのを楽しみにしていた。

 同窓会は、倉敷の美観地区の近くで行われた。
 漆喰壁の建物が並ぶ川沿いの道を歩いていると、若き青春時代を思い出した。
 あの頃、麻衣子にも一人のボーイフレンドがいた。一緒に登下校したり、図書室で勉強したり、清い交際をしていた。一度だけ暗い夜道で口づけしたことがある。
 青臭くて幼い恋だったが、とても大好きだった。お互い緊張が解けず、ぎこちなくなって上手く続かなかったことも、今では良い思い出だ。
  残念なことに、高校の卒業式以来、彼を見かけたことはない。関東の方で働いているらしく、同窓会には一度も出席しなかった。それでも麻衣子は、同窓会に出席する度に、「もしかして来ているのでは?」と淡い期待を抱かずにはいられなかった。

「久しぶり」 「お互いまた老けたなー」
 古い友人たちと談笑しながら、麻衣子はきょろきょろと会場を見渡した。外見は変わっているかもしれないが、それらしい人物は見当たらない。
 やっぱり来てない・・・。落胆したその時だった。
「すみません・・・」
  一人の男性が麻衣子に声をかけた。
「吉田さんですよね?」
「・・・はい」
 吉田とは麻衣子の旧姓である。
「谷本です。・・・覚えてませんか?」
「あっ・・・・・・」

 少しはにかみながら尋ねてきたのは、そう、彼だった。
 20年の時を経て、ついに再会することができたのだ。
 突然のことに麻衣子の鼓動は激しく高鳴る。
 この服変じゃないかしら、目元の皺が目立ってないかしら。自意識過剰な程に谷本の視線を気にし始めた。
「久しぶり・・・。元気にしてましたか?」
「ええ。高校卒業してから東京に働きに出て、結婚して仕事に追われてましたが、この度、岡山に戻ってきました」
 戻ってきたからと言って、頻繁に会うわけではないのに近くに住むというだけで、麻衣子は嬉しかった。
「そうなんですか」
 麻衣子は時折友人との会話に混ざりながら、谷本と20年の間の出来事を語り合った。
 お互い結婚して子供もいる。昔のように戻ることはできないと分かっていても、麻衣子は嬉しさを隠せなかった。

                     ◇ ◇ ◇

「良かったらこの後、どこかで飲みませんか?」
 谷本から誘われた時、麻衣子は何か目的を達成した気分になった。
 いつもは真面目に家事をして、人並みに子供の面倒だってみている。土曜の夜に少し位帰りが遅くなったって悪いことはしていないはずだ。
「いいですね」
 麻衣子は何の迷いもなく答えた。
 気付くと、お互い敬語で話すこともなくなっていた。
 久々に気になる異性と二人で夜のお店に来て、麻衣子は舞い上がった。
 谷本が笑うと目尻に皺が寄り、年を重ねたことを感じさせる。しかし、麻衣子の旦那のように中年太りではなく、上品にスーツを着こなしている。
 谷本の横顔を見ながら、いつしか麻衣子はあの頃の恋心を思い出していた。
 麻衣子はあまり酒に強くないのに、カクテルを3、4杯飲んですっかり酔っ払ってしまった。甘いけれど、アルコール度数が高めのものを知らずに飲んでいたのだ。
 谷本に連れられて店を出たものの、足元がふらつき、どこを歩いているのかさえ分からない。
「麻衣子さん、大丈夫?」
 谷本が横で心配そうに尋ねる。
「うーん・・・大丈夫・・・」
 麻衣子はそう言うのがやっとだった。
「これは大丈夫・・・じゃないね。一人じゃ帰れんよね。どこかで休んでいこうか」
 「一体どこで?」と思ったが、麻衣子は聞かないことにした。
 どこでもいい。このまま谷本の望む所に連れて行ってもらおう。
 谷本に肩を抱かれると、酒で火照っていた体がますます熱くなった。体の一部分に血液が集中して流れ込んでいる気がする。
 二人は表通りを反れ、裏道に入って行った。

 誰も人がいないフロント。やはりそういう場所に入ってしまった。
 エレベーターに乗って3階のボタンを押すと谷本は麻衣子の腰に手を回して密着した。部屋までのたった10メートル程の距離を歩くのにも、酷くじれったく感じる。互いの体の中から、これから起こる事への期待が溢れ出すのを感じた。
 部屋に入ると、待ち切れなかったように谷本は麻衣子をきつく抱き締めた。
「麻衣子さん、好きだ・・・」
 麻衣子の手から力が抜け、バッグが床に落ちた。
「私も・・・」
 酒と煙草の匂いに包まれながら、麻衣子は小さく呟いた。
 麻衣子の反応を確認した谷本は、激しく唇を重ねてきた。磁石にでも引かれるように、麻衣子の唇は谷本から離れられない。
 やがて深いキスになり、舌を絡め合いながら、互いの口腔内を味わった。
 甘い大人の蜜を吸うと、久しぶりの男の感触に麻衣子は頭がくらくらした。
 頬は上気し、体温は上がり、既に下からも濃厚な蜜が溢れ出ようとしていた・・・。

 このまま最後まで突き進むことを感じた麻衣子は、ワンピースのファスナーに手をかけて下ろそうとした谷本を止めた。
「待って。まだシャワー浴びてない・・・」
「待てない」
 麻衣子の抵抗も虚しく、強引にベッドに押し倒されてしまった。
 一瞬ふと旦那のことが頭によぎったが、時すでに遅し。
 耳元に優しく息を吹きかけられ、耳たぶを軽く噛まれると、麻衣子は次第に全身から力が抜けていった。
 旦那もきっと浮気の一つや二つ経験しているだろう。そう思うことで、自分の罪を軽くしようとしたのかもしれない。
 谷本は麻衣子の首筋や鎖骨までもゆっくりと唇でなぞり、感触を確かめているようだ。
 適当に胸を揉んであそこを荒々しく触って、入れるだけの旦那とは大違いだ。
 その丁寧で焦らされる愛撫に、麻衣子は深く酔いしれた。
「あ・・・ふぅ・・・」
 聞こえるか聞こえないか位の微かな声を漏らすと、谷本はより一層感じさせてやろうと気合を入れた。
 谷本がワンピースを脱がし、ブラジャーをとると、麻衣子は恥じらって胸を隠した。
「恥ずかしい・・・。こんなに老けちゃって・・・」
「そんなことない。麻衣子さんは綺麗だ。あの頃も可愛かったけど、今は大人の女性として最高だよ・・・」
 その発言は麻衣子のプライドをくすぐった。旦那にも言われたことのないような言葉をサラッと口に出せる谷本に 溺れていく予感がした。
 麻衣子の胸を揉んだ谷本はその感触に感激した。
「おっぱいはこんなに弾力があるし、すべすべして気持ちいい・・・」
「そんな・・・」
 コラーゲンのサプリメントを飲んでいて良かったと麻衣子は思った。
 肉体が衰えていくのはやはり寂しく感じる。
 誰かに披露する機会がなくとも、少し高い化粧品や健康食品に手を出してしまう。
 それが役に立つ日が来るとは・・・。

 谷本は夢中で麻衣子の胸にしゃぶりついた。
 20年前の若い盛りにも、こうしてセックスすることを望んでいたが叶わなかった。
 若い子のように瑞々しい肉体ではないけれど、麻衣子の落ち着いた雰囲気と、白くて柔らかな肉体から滲み出る大人の色気に谷本は欲望を膨らませた。
 谷本が麻衣子の薄茶色の蕾を転がすと、麻衣子は体を弓なりに反らした。
「あぁっ・・・いい・・・」
 この感触・・・、堪らないわ。
 きゅんと子宮が疼き、下半身に熱が籠った。谷本の口の中で、これ以上ないくらいに乳首は硬くなった。
 谷本の愛撫によって体をのけ反らし、濡らし、さらに深い快楽を受け入れるための準備を着々と進めている。
 普段は大人しく主婦をし、落ち着いた大人を演じる麻衣子は、男を求めるただの雌になっていた。
 谷本が麻衣子のショーツを脱がし、秘所に手を伸ばすと、そこは洪水状態だった。薄ピンクのショーツが濡れて、濃い色になっている。
 谷本は自分を求めてくれているんだと嬉しくなった。
「麻衣子さんが濡れてる」
 意地悪く囁くと、麻衣子は少女のように恥じらい頬を赤らめた。
 割れ目をなぞりながらそっと潤みに指を差し入れると、思った以上にきつさを感じた。
 これはしばらく旦那としてないのか・・・。
「はぁ・・・ん」
 それでも麻衣子は愛液を流しながら、快感に浸っているようだ。
 指を抜き差しする度に、腰がゆらゆらと動き、肉壁がきゅっと締め付けてくる。
 この中に入ったらさぞや気持ちいいだろうな・・・。
 自身の息子ははちきれんばかりに大きくなり、窮屈そうにズボンで圧迫されていた。
 こんな勃起を感じたのは久しぶりだ――。
 限界まで頑張ろうと、麻衣子の大きくなっている肉芽を指で押し付けた。
「いやぁ・・・だめそこは・・・」
 体をくねらせてよがり声をあげる麻衣子。
 口ではそう言いながらも、谷本の指に押し当てるように腰が動いている。
 愛液をなすり付けられて、ぬるぬる擦られると早くも達しそうになっていた。
「谷本さん・・・来て・・・・・」
 疼きが限界に来た麻衣子は、はしたなくねだった。

 そそり立つ谷本の男を見て、麻衣子の秘所から熱いものがじわぁっと溢れ出した。
 これが今から入ってくるのね・・・。
 谷本を誘うように妖しく花びらがひくついた。
 谷本は、ゴムを付けて準備の整った怒張を蜜壺の入口にあてがうと、そのまま一気に貫いた。
「あぁぁー・・・」
 好きな男を奥まで受け入れ、麻衣子の中は歓喜に打ち震えた。 襞は肉棒をしっかりと捕らえ、谷本を追い詰める。
「うう・・・麻衣子さんの中、いいよ・・・」
 結合部から麻衣子の淫汁が溢れ出して、シーツを濡らす。
 欲情にかられた谷本は、思うがままに腰を打ち付ける。麻衣子も両足で谷本を挟みながら、淫らに腰を動かした。
 あぁん・・・最高だわ・・・もう一生この人とセックスしていたい・・・。
 ぴったりと体が密着しているせいか、自慰のような物寂しさもない。愛され、欲情されながらするセックスの何て素晴らしいこと。もう家庭のことはすっかり忘れて、谷本と激しく求め合うことだけを考えている。
 麻衣子の奥はヒクヒクと絶え間なく締め付けを繰り返し、限界が近付いていることを知らせた。
 谷本も妻とは違う麻衣子の内部に包まれ、肉棒は今にも爆発しそうな程ビクビク跳ねていた。鈴口が震える度に、先走りが次々と溢れ出す。
「んんっ・・気持ちいいっ・・・もっと・・・」
「ああぁ・・・駄目・・・イキそう・・・」
 麻衣子は次々と恥ずかしいことを口走った。
「待って、一緒に・・・」
 谷山の声が聞こえたが、頭が真っ白になりもう何も考えられない麻衣子は、我慢する術もなく一気に堕ちて行く。
「ああああっ・・・・」
 体が一気に緊張した後、猛スピードで弛緩していった。
 麻衣子が達するとほぼ同時に、谷本は低いうなり声をあげると白い欲望を解き放った。

 お互い家庭があるので長居は出来ない。
 軽くシャワーを浴びると、帰り支度を始めた。
 石鹸を使うと、匂いで奥さんに浮気がばれたという話を聞いたことがあるので、麻衣子は使わなかった。 きっと谷本もそうしているだろう。
「何だか変な感じだね。ほんとは20年前にこうしたかったけど、勇気がなくてできなかった」
「そうなの・・・?私も恥ずかしくて、キスされた後逃げてしまったごめんなさい」
「いや、俺は初心な麻衣子さんが好きだったんだ。でも今のセクシーな麻衣子さんもいい・・・」
 この男と、もう離れられなくなるかもしれない―。
 清算している谷本の後ろ姿を見ながら、麻衣子は感じた。

―――――終わり―――――

【あとがき】初めて不倫の話を書いてみました^^もっとドキドキするような展開にできたら良かったな〜・・・。次はもっとアブノーマルな話がいいですかね?岡山弁を調べてみましたが、多分微妙な方言になってると思います。

手軽に刺激的なエッチを

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