心の鍵を開いたメール 名前変換 
 あの人とメールを始めたのはほんの出来心だった。
 そう、ただの暇つぶし。
 それだけで済んだらこんなに苦しくなることはなかっただろう―。

 私には長年連れ添った主人と、もうすぐ二十歳になる娘がいる。
 娘は高校を卒業すると、県外の大学に通うため、実家を出てアパートで一人暮らしを始めた。
 手のかかる子供が傍にいなくなって、私達夫婦は生活費と娘の学費を稼ぐために働いている。
 私は主婦業の傍ら、近くのスーパーでレジのパートをしている。
 パートが休みの日には、娘がインターネットを使いたいとかで購入したパソコンを弄っている。
 大学生になった娘は、ノートパソコンが必要だと言い出して、最新のものを買ってやると、古いパソコンを置いて出て行ってしまった。
 文字さえ打つことができなかった私だが、初心者のパソコン教室に通って、何とかワードやネットを使いこなせるまでに上達することが出来た。
 インターネットの世界では、日常生活で必要な情報の検索から趣味まで、様々なことが体験できる。
 お料理のレシピの検索、通販、ホテルの予約、主婦のコミュニティ、ネットゲーム…。

 そこで最近流行のブログを見たのがいけなかった。
 ブログの著者は、私と同じ主婦と思われる人物で、旦那がいるのに他の年下の男性とお付き合いしていた。所謂、不倫である。
 最初は、年甲斐もなく恥ずかしいことを平気で晒す女がいるものだわ、とけなすつもりで読んでみたのだが、徐々に彼女のブログの世界に引き込まれてしまった。
 彼を愛する気持ちや濃密なデートの描写は私の心を熱くした。
 特に旦那以外の男と寝る(当然、ただ眠るだけではない)ことについて興味を持った。
 旦那以外に体を曝け出し、彼にアソコを弄られて、自分も彼のものを弄って、最後に逞しいもので貫かれるなんて…。
 それはとても気持ちの良いことなんだそうだ。
 ブログの主婦は、明らかに私よりも「オンナ」であった。
 私は彼女のブログの毎日覗き、性描写がある時には必ずと言って良い程、自らの胸や股間を弄りながら読んでいた。
 おま○こをぎゅっと手で押さえつけて、前後に擦って、足をピンと突っ張ると気持ち良さに身震いした。
 段々胸の鼓動が早くなり、鼻息も荒くなる。
 そして、彼女達が絶頂を迎えると共に、私もパソコンの前で静かに昇りつめていたのだった。

 パートが休みの木曜日、午後1時半。
 これから、ある男性と会う約束をしている。
 旦那以外の男性と二人きりで出かけるなんて何年ぶりだろうか。
 ・・・思い出せないのが悲しい。
 あれから私は、メル友を募集する掲示板に興味本位で書き込みをしてみた。
 というハンドルネームを使った。
 『45歳の主婦です。趣味はネットと映画鑑賞です。募集するのは初めてで緊張していますが、日頃の他愛無いお話が出来る方おりましたらメール下さい。』
 次の日にメールボックスを開いてみると、数え切れない量のメールが届いていた。全て男性からである。
 大抵は「刺激を求めてみませんか」「外見は並以上だと思います。芸能人の○○に似ていると言われます。満足させる自信があります」などエッチ目的だと思われるメールが多かった。
 その中からなるべく害の無さそうな人を選んだつもりだった。
 なのに、こうして実際に会うことになるなんて。 なんて…これは言い訳。
 沢山いる中で、都内に住んでいる男性を選んだのは、私が確信犯だった証拠だ。

 知らない男性とのメールは楽しかった。
 旦那には聞き流されるような話でも、彼は丁寧に聞いて返事してくれる。
 お勧めの映画も教えてくれて、お陰でレンタルビデオ屋に通う回数が増えてしまった。
 毎日、パートが終わってからメールをするのが楽しみになっていた。
 他人と話をするのが楽しくて仕方がなくて、相手のことをもっと知りたいと願う。前にこんな気持ちになったのは、いつだったか思い出せない。

 待ち合わせのカフェの前に行くと、一人の男性が立っていた。
 グレージュのタイトジャケットに黒のスラックスを履いていた。
 年齢は旦那より2歳年上なのに、どう見ても彼は旦那よりも若く見えた。
 というハンドルネームのその男性は、私が傍に行くと「さんですね」 と尋ねた。私は緊張の面持ちで挨拶を済ませる。
 お茶をしながら、これからどうしようかという話になる。
 こうしている間にも、お互いの容姿や雰囲気を探り合う。
 ファッションセンスも良いし、中年太りもないし、ぱっと見た感じは悪くない。
 カフェを出て映画館に着く頃には、緊張も解けて彼とのデートを楽しんでいた。

 1ヶ月前から上映されている、今話題の遠距離恋愛の映画を見ることにした。
 メールで私が興味があると言ったことがあるからだ。
 チケットを買うと、私達は一番後ろの席についた。
 平日の昼間なのか、客はあまり入っておらず、女性ばかりだった。
「恋愛ものの映画なんて、男の人にとってはつまらないんじゃないかしら…」
「いいんですよ。僕も恋愛映画は好きですから。それに、さんと見れるなら何でも嬉しい」
「ま、まあ…お上手なんだから」
 さんは女性を喜ばせる言葉を知っている。
 映画館で初デートするなんて、学生時代に戻ったみたいで、秘かにワクワクした。
 例え彼が遊び慣れている人だとしても、別にいいじゃない。
 私も彼も今を楽しむことだけを求めている。
 そう思うことにしよう。

 近日公開予定の映画の予告が終わり、本編が始まった。
 私は隣にいるさんを意識しながら、スクリーンを見つめる。
 30代後半のキャリアウーマンが一人の男性に恋して、遠距離恋愛になって秘かに涙し、苦悩を抱えながら愛を育んでいく話だった。
 会えなくて不安になって涙する日々。私にもずっと前にはあったはずだ。
 でもここ数年は、誰かを想う気持ちさえ、どんなものだったか忘れてしまっていた。
 あなたに会うまではね…。
 彼は、さんは、どうなんだろう。
 私のことをどう思っているのだろう。

 映画の中の二人が再開した際、濃厚なキスをしているのを見ていると、初心な少女のように、頬を赤らめドキドキしてしまった。
 膝の上のスカートをぎゅっと握る手の上に、彼の手が置かれた。
 驚いて隣を見ると、さんとばっちり目が合ってしまった。
 何か言いたげな表情を浮かべた彼。
 揺れる瞳の中から感情を読み取ろうとした時だった。
 こちらをじっと見据えたまま、彼の顔が近づいてくる。
 咄嗟に目を瞑ると、彼の唇は私のものに重なっていた。
 さくらんぼのような甘酸っぱいキスが全身を痺れさせた。
 その時、私の中で眠っていた感情が目を覚ました。
 暗闇の中で光る彼の熱っぽい眼差しは、私の心の奥で閉まっていた扉の鍵を開いた。
 私達は、映画を見るのも忘れて、何度も唇を重ねた。
 旦那とのキスは、年に1、2回のセックスの時にさえ、なかった気がする。
 甘いキスにうっとりしていると、唇の隙間から彼の舌が滑り込んで来た。
 この私が旦那以外の人の舌を受け入れているなんて・・・。
 考えるだけで天にも舞い上がりそうな気分だ。
 心臓が早鐘を打ち、体がカッと火照った。
 私は彼に応えるように、舌を絡ませ、唾液を啜って、蕩けながらキスを味わった。
 堪らないわ…。この人、キスがとっても上手。
 今の私は全身に愛欲が漲っている一人の女だ。
 下半身の方に意識を集中させてみると、秘所が焼けるようにジンジン熱くなっているのが分かる。
 久しく味わったことのない感覚である。
 淫猥な液体が奥から零れ落ちるのを感じて、ぎゅっと足を閉じた。
「んふぅ…はぁ…はぁ……」
 大音量のBGMに紛れて、私は淫らな吐息を漏らし続けていた。

 それからの私達は手を繋いだまま映画を見た。
 映画の中の恋人同士になったかのような気分で、彼の体温を感じながら涙し、微笑んだ。
 少し肩を彼の方に持たれ掛けてみた。
 エンディングロールが終わっても、私達は席を立たなかった。
「良かったですね。さすがさんが選んだ映画だけある」
「そんな…私はただ人気があるものに飛びついただけだから」
 あたふたしながら言う私を見て、さんはにっこり微笑んだ。
「この後、夕食も一緒にどうです?」
 外に向かう通路を歩いていると、彼が誘って来た。
「ごめんなさい。今日は早く帰らなきゃ…」
「そうですか。夕食作ったりしないといけないですよね。 すみません、気がきかなくて」
「いいえ、今日はとても楽しかったです」
 こういう時は、早めに別れた方が良いのだ、おそらく。
 長時間一緒にいて、疲れる前に別れた方が次に繋がると、ネットに書いてあったから。
 恋愛攻略みたいな事を考えて・・・私は何を考えているのだろう。
 家庭を持つ者が、何度もこの人と会って何をしようと言うのだろう。

 午後7時になると、いつものように疲れた様子の愛想ない旦那が帰って来たが、私はいつもよりも寛大な態度で旦那の世話を焼いていた。
 それには理由がある。
 さんとの口付けを思い出しては、胸が熱くなり、嬉しい気持ちが何度も込み上げてきた。
 目の前にいる中年男性からは与えて貰えない扇情的な何かが、私の身体に残っている。
 娘が家を出てから、寝室は夫婦別々になった。
 それでも別に寂しくも何ともないという気持ちが、冷めた夫婦であることを認識させる。

 私は自分の寝室に入ると、いつもはかけない鍵をしっかりかけた。
 朝までに旦那が入ってくる可能性は0に近かったが、これからしようとすることの後ろめたさがそうさせたのだろう。
 布団に入って今日の出来事を思い出した。
 初めてメル友を作って、大胆にも実際に会ってしまった。
 映画を見ながら濃厚な口づけを交わしてしまった。
 キスだけでオーガズムを迎えてしまいそうな、強烈な快感を私の体に与えた。
 嫌だわ。この年になってもまだセックスがしたくて堪らなくなるなんて。こんなの誰にも言えやしない。
 夕方帰宅した後、トイレに入って下着を下ろすと、ショーツの 真ん中には、薄黄色のシミとは別の透明な粘っこいものが大量に付着していて唖然とした。
 それを見ると淫らな気持ちがムクムクと沸き上がり、今すぐにでも自慰してしまいたいのを堪えて夕食の準備に取り掛かった。
 寝る前に自慰しようと決めてから、ずっと楽しみに待っていた。

 私は目を閉じると、キャミソールに胸当てパッドがついた下着の中に手を差し入れた。
 Cカップの胸を両手で揉みしだくと、官能に火がつき、エッチな溜め息がこぼれた。
 寝つきの良い旦那は既にぐっすり眠っているだろう。
「あぁ…」
 女になった私は、小さく喘ぐとますます子宮が切なく疼いた。
 既にツンと尖った乳首を指先で押すと、その刺激は一瞬で下半身に伝わった。
 秘所がきゅんと痺れたかと思うと、淫裂がビクンと大きく蠢いた。
 初めてここをじっくり観察した時は、ここだけ別の生き物が住んでいるんじゃないかと思った。
 普段はきつく閉じている穴なのに、男性を受け入れる時はびっしょりと濡れて柔らかくなり、太い棍棒を飲み込んでいく。
 私は胡桃のように硬くなった胸の先端を弄りながら、秘所からじわりと液体が零れて来る様を楽しんだ。
 存分に潤った所で、パジャマのズボンとショーツを下ろした。
 茂みを掻き分けて中心に触れると、ぬるっとした愛液がべっとり指についた。
 いやらしい…もうこんなに濡れてるわ…。
 たっぷりの蜜液を掬うと、敏感なクリトリスに擦り付けて、クルクルなぞった。
 だらしなく開いていた入り口がきゅうんと閉まって、全身に鳥肌が立った。
 やっぱり気持ちいいわ、クリトリスは…。
 服の上から手で押すのとは比べ物にならない。
 掛け布団の下で、私は遠慮なく思い切り足を広げた。
 長い間、快感を味わうために、昇り詰めそうになると指を止めては焦らし、波が去るとまた突起を淫らに擦った。
『そんな所、だめぇっ…』
『いいじゃないか。さんのアソコ、びっしょり濡れてヒクヒクしてるよ』
 私はいつの間にか彼にクンニされている所を想像していた。
 彼は怒張したペニスを私に見せ付けるように時折握る。
『あぁっ…堪らないわ、さん……』
さんは感じやすいんだね』
 さんは、ぴちゃぴちゃ、ちゅっちゅっと音を立ててクリトリスを激しく吸いたてる。
 もう我慢できない、イっちゃう…
「はぁぁ…ああ…あっ……」
 私は激しく中指を動かすと、快感が頂点に高まり、ガクンと体を痙攣させながらオーガズムを迎えた。
さん…好きよ」
 私は小さな声で呟きながら、まだ股間から手を離せずにいた。

 次の日、いつものようにパソコンを開いてメールボックスを開いたが、彼からのメールは届いていなかった。
 落胆しながら、マイナス思考に陥ってしまう。
 キスがぎこちないのを嫌がられたのかしら。
 もしくは拒ばなかったから、スケベな女だと思われたのかしら。
 こんなおばさんでがっかりしたのかもね。
 私は何の取り得もないただの主婦だから、自分に自信を持てない。
 
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