蒼き海底を目指して・・・ (投稿:七瀬涼香 様)
 静かに・・・・そしてゆっくりと確実に私の身体は蒼き海底を目指して沈んでゆく―――



 彼に初めて逢ったあの日、私は心の底から運命を呪った。
 仲の良い、三つ上の姉、恭子に紹介されたあなたはまさに私が待ち焦がれていた理想の男性、そのものだった・・・
 あなた達は確実に愛を育み、成就させたその日―――私の左手首に引き攣った醜い傷が刻印された。


「海を見に行かないか・・・」
 あなたからの誘いにまるで乙女の如く心ざわめき、浮き足立って喜んだ私。
 疑う気持ちなど微塵も無かった・・・・
 夏も盛りだと言うのに、ビーチにはそれほどの人出も無く私と愁(しゅう)はのんびりと浜辺で甘いひと時を過ごしたりしていた。
 紺碧のエーゲ海の島に建ち並ぶような、真っ白なリゾートホテルの室内で私達は互いの身体を貪り、自身の香を相手の身体に染み付けるように深く激しく求め合い愛し合った・・・・
「愁?・・・・姉さんとあたし・・・どっちが相性いいのかしら?」
「姉さんなんかよりあずさの方がずっと愁を愛してるし、幸せに出来るんだから・・・ねぇあの女と別れてよ!」
 小悪魔めいた私の言葉に眉根を少し寄せ、苦笑いだけしたあなた・・・・
 二人だけしか知らない禁断の木の実は誰にも摘ましたりはしないんだから・・・
 私しか知らないあなたのカラダの隅々・・・太腿の付け根にある小さな黒子。
 何度舌先で味わったことか―――

 夕方から急に降り出したスコールの様な激しい雨。
 窓を打ちつける雨音がやけにあたしの心情を 囃し立てる。
 稲妻の閃光さえ淫らに私の劣情を激しく照らす。
 光を背にして窓辺に立つ私の全身を食い入るように見つめるあなた・・・
 飢えたその眼差しに挑発するようにバスローブを肌蹴てみる。
 痛いほどに突き刺さるあなたの視線に耐えられなくなったあたしはそっとあなたのカラダの温もりを求めて火照った身をすり寄せた。
「あずさって・・・日向の匂いがするな。俺・・・好きだよ、あずさの匂い。」
   そう優しく呟くあなたを心底愛しいと思った。
 私の中の女としての劣情がメラメラと熱い炎を滾らせ、その矛先を愛しい彼へと向かわせた。
 彼の股間に顔を寄せ、扇情的な眼差しを送りながら、ボクサーパンツの布地の上からねっとりとした唾液を湛え、彼のイチモツの形に添って桃色の舌先で舐め回し、唾液でぐっしょりと濡らしていった―――
 彼の悩ましげな喘ぎが心地良く耳にざわめく。
 もっと感じさせたいと思った・・・・
 もっといたぶり、私の中に潜む女を彼の内部へと沁み込ませたかった・・・・
 彼のモノが硬さを増し、脈打つかの様に男の色香を発散させてゆく。
 私は堪らず、パンツをずらし露になった、赤黒く淫靡に濡れ光るペニスを愛しげに口一杯に頬張った。
「あぁっ… あうっ!・・・あずさっ・・・」
 彼の切なげな声が、私の中に眠る加虐心を益々加速させてゆく―――
「愁・・・・愛してる。私だけのもの・・・私だけを見てっ!・・・」
   彼の脈打つ肉塊を、舌先を窄めて上下に嘗め回し、エラの張ったカリ首を舌を回して刺激してゆく・・・
 鈴口を舌先でツンツンッと突付いてやると、ネバネバした悦液が溢れ出し、私の味覚に訴えかけてくる・・・
「あずさ!・・・俺もう我慢できないよっ!お前の中に挿れたくなってきたっ・・・なっ、いいだ・・ろ?」
「もぅ・・・ダメっ・・・愁をもう少しいたぶってからね!フフッ・・・」
 焦らしてもっともっと昂ぶらせたかった。
 駄々っ子のように欲しがる愁を可愛いと思った。
 私は咥内で唾液まみれで熱くなった彼の愛しい肉茎を、ジュブジュブと卑猥な音色で慈しみ、味わい尽くしていった・・・・
 頃合を見て、欲に震える彼の濡れそぼった先端に手を触れながら、自分の秘部に宛がった。
 徐々に腰を奥深くまで沈めていき、悩ましげに腰を上下に揺さぶったり、グラインドさせていった・・・・
 私達は互いの両手の指を絡ませ合い、激しい息遣いを奏でながら昇り詰めていった―――
 二人はほぼ同時に果てて、私は彼の厚い胸板に倒れこんで火照った顔を摺り寄せた。
 何度も鼻腔に感じた彼の淡い汗の匂いをこのままいつまでも尽きる事無く嗅いでいたいと思った・・・・
 あの女には絶対にこの人を返したくない!・・・・そう心の中で叫びながら私は身も心も蕩けさせられ、深い眠り の森へと堕ちていった―――
 雨は夜遅くまで降り続いた・・・・

 翌朝は打って変わって清々しいほどに晴れ渡り、昨夜の二人の淫靡な交わりを青く高い夏空が払拭させていくようであった。
「あずさ、今日は旅の最後の日だから思いっ切り海で泳ごうな!・・・現実に引き戻されるのは辛いけどな・・・」
「うん!もっちろん。 あずさ・・・愁と過ごしたこの三日間を一生忘れないと思う。・・・だから愁も忘れないでっ」
 私達は心ゆくまで二人だけの時間を慈しみ、心から堪能した。
 海の家で借りたゴムボートに乗り込み、私達は蒼い海原をゆらゆらと漂っていた。
 真夏の眩いばかりの陽射しを全身に浴び、閉じた瞼の裏に橙色の明るい色彩が浮かんでくる。
 ゆっくりと瞼を開け、私は覚悟の言葉を紡ぎ始めていった・・・・
「愁・・・昨夜あずが言ったこと・・・本気だから。 愁を誰にも渡したくないの!お願いだから・・・姉さんなんかとは別れてあずだけの‘モノ‘になって・・・・ねぇ!愁・・・」
 ずっと黙り込んで話を聞いていた彼に縋りつこうとしたその瞬間! 私の小柄なカラダが愁の大きな掌で弾き返され狭いボートから夏の群青色の海原に突き落とされた―――
(愁・・・・なんで・・・そんなにあずが疎ましかったの?そんなにあの女を愛してると言うの?私を殺したいくらいに・・・・)

 一瞬、音が濁った。
 波頭が砕けていくように・・・・
 瞼を閉じる間さえも無かった。
 私は見開いたままの眼で、ゆっくりとした速度で遠ざかってゆく蒼き海面を虚ろな感情でただ見つめていた―――
 海面から降り注ぐ光の幾筋の帯を心底綺麗だと思った。
 手を伸ばせば届くような・・・この身を纏って浮かび上がらせてくれる気がして・・・・
 水圧と温度で圧迫感を覚え、徐々に息苦しくなってくる。
 意識が混濁し、正常な思考が阻まれる。
(このままどこまでもこの身を運命に預けてみようか・・・何度も死にたいと思ったのに・・・今は何故か生きたいと願う)
―― 全身で愛した男からの予期せぬ裏切りが冷たい海の温度にも似て ――
 不意に愁の顔が脳裏をざわざわと掠めた。
 消え行く意識の中でも思い出すなんて・・・
 保身の為に私を死へと追いやった男なのに・・・
 何故に最後まで忘れられない?
 身体が浮かび上がらない・・・一体どこまで私の身体は沈んでしまったのか・・・
 どこまえも深く、深く海底目指して突き刺さってゆく私の身体。
 今はもう海面から射す光すら見えなくなっている。
 さようなら・・・・愁。 私がやっと出逢えた運命の人よ・・・
 静かに・・・そしてゆっくりと確実に私の身体は蒼き海底を目指して沈んでゆく―――

―――――終わり―――――
 
彼とらぶエッチを楽しもう

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