満月の夜に咲く花を追い求めて・・・ (投稿:七瀬涼香 様)
 美しい満月の夜にしか咲かない花があると云う――。

 白き衣装を纏った雲が、月の前をゆらゆらと横切ってゆく。
 満月の夜には、魔物がざわざわと蠢き出すと云う・・・。
 その正体はもしかしたら・・・人の心の奥深くに巣食う邪心と云う名の魔物なのかもしれない。

 小さな庭先に出て、天を仰いでみた。今宵のような満月の夜は何故だか躯が無性に疼く・・・。
 火照った躯を鎮めたくて・・・愛しい人への募る想いを和らげたくて・・・己の身を月光に晒してみた。
 蒼白い光に身も心も包まれ、そのまま蕩けさせられたいと思った。朝露の如く、儚くこのまま消え去ってしまいたいとも・・・。
「もう二度と私の前に現れないで・・・」
 そう告げたのは私。なのに・・・今もこうして、あの人を待つ惨めな自分が確かに存在する。愛した人には守るべき家庭があった・・・。揺ぎ無い確固たる小さな一つのコミュニティー。固く結ばれているであろう家族の絆が―――。

 入り込める隙間なんて・・・どこにも存在しないって・・・頭では解ってる。
 愛する人と過ごせる限られた尊い時間だけが、今の私にとっての全てだった・・・。
 あの人から「今から会えないか?」予期せぬ言葉にだって、いつも自分の事は後回しで、どんな時だって可能な限り合わせてきた。自己犠牲してるなんて想いは微塵も無かった。そう・・・あの瞬間までは・・・。



   その日、私は新しい春物のワンピースを新調しようと一人、街に繰り出していた。
 お目当てのショッピングモールで一目ぼれしたパステルカラーのワンピを購入し、カフェで乾いた喉を潤していた。窓辺の席に腰掛、ぼんやりと街行く人々を眺めていた私の視線の端にある家族の幸せそうな姿が捉えられた。
 そう・・・決して瞳に映したくは無かった・・・愛する人が家族と過ごすその姿が・・・。
 私が見た事も無い慈愛に満ちた表情、目尻に皺寄せたその笑顔・・・浴びる事の出来る家族への激しいジェラシーが胸の内でジリジリと焦げ付いてゆく・・・。殊更に独り身の侘しさや切なさが痛いくらいに胸に鋭く突き刺さる。
(独りぼっちはイヤ・・・。でも・・・愛しい人をこのまま独占出来ないのなら・・・こんなにも苦しく惨めな想いを噛み締めないといけないのなら・・・いっそ、離れてしまった方がいいのかもしれない・・・)



 紅色の浴衣の襟を開(はだ)けて、そっと左手を胸元に差し込んでみた。
 しっとりとして掌に吸い付くような自慢の柔肌。御椀型の美乳を優しく揉みしだきつつ時折爪を立ててみる。
 チクリとした痛感が脳髄を刺激する。人差し指と中指でまだ柔らかさを保つ胸の突起を挟み、少しづつ刺激を与えてやるとみるみるうちにそれは意思を持って硬さを増し尖ってゆく・・・。
 あぁぁ・・・この可憐な淡い桜色の先端を何度あの人に舐られ、得も知れぬ快楽をこの躯に刻印されてきた事かと・・・。
 瞼を閉じれば、愛しき人への慕情や忘れ得ぬあのしなやかな指先の魔術が官能の渦となって、私に襲い掛かってくる――。壊されたい・・・あの人のすらりと伸びた細き指先で・・・。
 蒼白い月光に照らされた白き肌がジクジクと疼き始める――。艶かしい吐息が春風に乗ってさらさらと流されてゆく・・・。愛しい人のあの瞬間の悦楽に溺れ、歪んだイキ顔が脳裏にざわめく。
 きっと生涯忘れる事なんて出来ないだろう・・・灰になったその時までも・・・。
 少しひんやりとした縁側に腰掛けてみた。アップに結わいた黒髪を両の指先で無造作にはらりと崩してみた。
 女性らしさを感じさせるこの優美な所作があの人は好きだったな・・・なんて物憂いに耽ったりして。静々と躯を横たわらせてみた。両膝を立てると、肌蹴た浴衣の裾が淫らに捲りあがる。扇情的で白き磁器の様な脹脛と太腿が姿を現し、何も着けていない下半身が露になる。濡れていた。あの人の悩ましげなイキ顔が媚薬となって、私自身を感じさせていた・・・・。
 どうせ独り・・・誰に咎められる事も、覗かれる事もありゃしない。
 満月の妖しげな光がスポットライトとなって、我が裸身を淫媚に照らしてくれるかしら・・・。
 花びらの様な襞を細い指先で何度もなぞってみる。先端の肉芽を優しく指の腹で擦り、貪欲に刺激を与えてゆく。女躯の神秘・・・この豆粒程の小さきモノが、底知れぬ快楽、快感を齎すなんて――。
‘独りでする‘・・・侘しさもあるけれど、官能を自在に操れる悦びもある。
 この先もずっと独りで?・・・・暗鬱な気持ちにさせられた。いっそ、鬼か色情霊にでもこの身を穢されてしまおうか・・・・。
 左手でまさぐっていた柔らかな半球体の頂(いただき)が硬さを増して、しこってきた。
 少し強めに親指と人差し指でキュッキュッと押し潰す。少しの痛みも伴って、快感に酔い痴れる。
 愛しい人に舐って欲しいと心の中で駄々をこねる。自分勝手な欲望に呆れながらも・・・。
「今すぐに逢いに来て・・・」
 そう素直に告げられないもどかしさ、歯痒さに情けなさを痛感する。
 せめて、せめて・・・あの人の姿無き魂だけでも・・・今、ここで狂おしいまでに強く抱擁されたい・・・。骨の髄まで軋むほどに・・・・。
 指先を細かに振動させて肉芽を弄ぶ。ぷっくりと大きさを増し、赤く充血してるのであろう。
 あの人の長く湿った舌先でヌラヌラと嬲られたい・・・吸われたい・・・頭の中で二人まぐわう卑猥な姿を巡らしながら歓喜に喘ぎ、手淫に陶酔してゆく――。
「あぁぁ・・・たくみっ・・・あなたが欲しいっ!・・・あなたの全てが・・・その猛々しい雄桿で私の女芯を激しく貫いて・・・んぁっ・・・感じてほしいぃ・・・のっ・・・イキたいのっ!・・・むぅぅんん・・・愛してるっ!たくみ・・・」
 二本の指を愛しき人の肉茎に見立て、蜜壷に差込み出し入れを繰り返す。ヌチャヌチャと湿潤な音色に惑わされてゆく。半開きになった口元から透明な液体が滴り流れ、顎先を雫が伝う。
 これほどまでに恋しいあの人なのに・・・・何故に自ら別れを告げたのか・・・・今更ながら己の浅はかさに反吐が出る想いを噛み締める。
 指先に柔らかな恥毛を絡め、戯れてみる。淫裂から溢れたぬめりを指の腹で花びらに塗り拡げてゆく・・・。
 その心地良い刺激に細い腰が快感を得ようと、悩ましげに浮き沈みする。
  「あぁぁんっ、んっんん!」
 淫らな悦声が漏れ始める。(誰かに聞かれたら・・・)そんな理性など闇に葬って、ただただ今この瞬間の官能の波間にゆらゆらといつまでも漂っていたかった・・・・。
 肉芽を貪る細き指先を激しく振動させ、勃起した乳頭を捏ね回す。
 次第に快感の渦に大きく巻き込まれ、脳内がピリピリと痺れた様な感覚に襲われてゆく・・・。
「むっふぅん!・・・たく・・・み・・・来てっ・・・雪乃を思いっ切りいたぶって・・・あぁぁ・・・感じるのぅ・・・あうっ!もうだめぇぇ・・・イクぅぅーーはうんっ!」
 大きく背中が仰け反られ、艶かしく白き両脚がピクピクと痙攣した――。
 いつの間にかそのままの姿で寝入ってしまった。
 夢を見ていた。粉雪舞う寒き季節に母は私の命と引き換えに天界へと召されてしまった・・・。
 母が好きだったと云う、雪の付くこの名前を授かった。未来永劫、忘れ得ぬ粉雪舞う季節の大切な母の命日を ――。
「ゆ・・・き・・・のっ・・・雪乃!」
 誰かに名を呼ばれた気がした・・・・。
 それは、春の宴か夢現か・・・・。静かに瞼を開いていった・・・。瞳にあれほど映したかった、愛しき人の面差しが眼球に鮮明に映し出された。
(たくみ?・・・どうしてあなたがここに?・・・)
「お前・・・大丈夫なのか?いくら名を呼んでも目覚めないから・・・もしや息をしてないのかと・・・」
 心配そうにそう呟く、聞きなれた優しい声色に涙が溢れ、視界が遮られた。
「ごめんなさいっ!・・・私・・・あんな酷い事言って・・・もう二度とここへは来てくれないだろうって私・・・」
 喉元から嗚咽が漏れた・・・。女の儚いプライドなんて・・・今の私には何も必要など無かった。
 待ち焦がれた・・・愛しいあの人がこうして再び私の元を訪れてくれた・・・・。それだけで全てが浄化され満たされていった。
「いいんだよ。もう・・・俺は何も気にしてないから・・・。ただこうしてお前と共に時を過ごせ、同じ季節を共有出来たらそれで・・・愛してる。身勝手な男だといくら責められても俺は構わないさ・・・お前の傍にいつまでも一緒にいさせて欲しい。それだけが・・・俺の心からの願いであり、償いだから・・・」
 愛しいあなたの胸の中に飛び込んで・・・・未来など、将来なんて・・・何も考えたくは無かった。離れたくない感情が押し寄せて来る。どうせ独りなんだから・・・もうこんな誤魔化しは卒業しよう・・・寂しいと素直に言葉に載せ、子猫の様に甘えられる女でいたい。心がわなわなと震え出していた――。
「たくみ・・・愛してる。私・・・何も望まないから・・・でも一つだけ・・・お願い、聞いて欲しいの」
「お願い?何でも言っていいから・・・こんな俺だけど・・・お前の願い、叶えられるなら・・・」
「美しい満月の夜にしか咲かない花があるの・・・。それを一緒に探しに行きたい。その花を愛でられたら・・・願い事が一つだけ叶うんだって。そう今宵の様な月光の力を借りて・・・ね?たく・・・」
 そう言い終わらないうちに・・・・熱く柔らかい唇が私の白き粉雪の様なうなじに押し付けられた。
 シュルシュルと帯を解かれる衣擦れの音色がひどく心地良く耳元に響き、蜜汁がツーっと白き太腿の内側を妖しく滴り零れてゆく・・・。
 二人の熱き吐息がまぐわい・・・そして、深い深い闇の彼方へと滑り堕ちていった――。
 今宵、愛しきあなたと褥を共にできる珠玉の悦びを伴って・・・・。  

―――――終わり―――――
 
彼とらぶエッチを楽しもう

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