Jealousy 1 名前変換  3月1日の続編
 これからの生活に期待と不安を膨らませながら、新しいスーツを着たは桜の花が舞い散る道を一人で歩いていた。
 やがて同じようにスーツ姿の若い男女が一つの場所に集まり始める。
 体育館への道を歩いていると、様々なユニフォームを来た学生達からサークルの勧誘のチラシを渡された。
「テニスサークル、毎日楽しいですよー!!初心者でも全然大丈夫です」
「漫画研究会に来てくださーい。本日午後から○○教室で見学を…」
 大声を張り上げてサークルの勧誘に励んでいる先輩の学生たちとは対照的に、固い表情の新入生たちはゆっくりと吟味する余裕はない。
 はどんどん貯まっていくチラシをまとめるとバッグの中に詰め込んだ。大きく深呼吸すると、独特の緊張感が漂う体育館の中に足を踏み入れた。

 大学生活の最初の一月は慌しく過ぎた。
 分厚いシラバスを捲って前期の履修科目を決めたり、教員免許をとるための説明会に出席したり、新入生歓迎コンパに参加したりで、彼に会えなくて感傷に浸る時間はあまりなかった。
 慣れないコンパにも積極的に参加したおかげで友達も数人できた。これでひとまず孤独な大学生活を免れたと思い、肩の力は抜けた。
 大学には全国各地から生徒が集まっているため、話すこと全てが新鮮だ。また高校までの堅苦しい規則などなく、自由な環境のキャンパス内では浮き足立った学生生活を送る者が多数いた。
 もその中の一人であり、広い学生食堂でランチを取ったり、講義のない時間に1友達とカフェでお茶していると、憧れの大学生活を楽しんでいるという気分に浸り、つい浮かれてしまうのだった。
「ねえ、さんは彼氏いるの?」
 友人グループの中の一人、小林にそう聞かれた時、何て答えたらいいか一瞬戸惑ってしまった。
 最近、ともあまり連絡を取っていないし、少し距離が離れているせいで頻繁には会えない。ちゃんと付き合っているという実感は少ないかもしれない。
「あー、その反応はいそうだな。さんもてそうだから」
 話を聞いていた友人がの反応を伺うように、ニヤニヤしながらからかう。
 どうしよう。何か答えなきゃ…。
「う、ううん、全然もてないって!それに、付き合ってるかどうか微妙なところだし…」
 言ってしまった。最後の方は声が小さくなってしまったけれど。はっきり付き合っている人がいるとは言えなかった。
「へえ、そうなんだ。何か訳ありって感じ?」
 小林が興味津々といった感じで食いついてくると、他の男子も一斉にの方をじっと見たから焦ってしまう。
「別に…。ちょっと住んでる所が遠いからあまり会えなくって…」
 正直に本当のことを答えてしまった。
「おー!?これはチャンスあるんじゃないの?」
 誰かが学生特有のノリでちゃかして、みんなで笑った。
 の住んでいる街までは新幹線に乗れば1時間半、別に会えない距離ではないが、まだ学生で資金もあまりないにとっては遠い世界に住んでいるように感じる。毎週のように会いに行くのは難しいだろう。
 そう思っているのは、このまま愛情が薄れてしまうのが怖いからなのだろうか。ただでさえ年の差があり立派に美術教師をしているが、ただの大学生の自分のことを愛し続けてくれる自信はこれっぽっちもなかった。遠距離だから別れてしまうのは仕方が無い、 自信のない自分に対する言い訳を作りたかったのかもしれない。
 入学して最初の緊張感は大分無くなってきた気がする。楽しいのだけれど、何か物足りない感じ。軽い5月病なんだろうか。
 大学で友達と談笑したり、広い講義室で勉強している時は良いのだが、静かなアパートの部屋に帰宅すると急に寂しさが襲ってくることが あった。
 からメールの最後の返事が来たのは2日前だ。彼も忙しいのだからあまりメールしてはいけないと考え、それから放置して ただ不安な時間だけが過ぎる。
 は携帯メールの彼専用のフォルダを開いた。
『元気だよ。も忙しいだろうけど体調に気をつけるんだよ。また電話する』
 また電話するってことは少なくとも嫌われてはないんだよね。忙しいのに返事くれたってことは、あたしのこと気にしてくれてるんだよね…。
 からのメールを何度も読み返しては、その文章の中に自分への愛がどれ程詰まっているのかを当ても無く考えていた。
 その時、突然携帯の着信音が流れてはドキッとした。彼からのメールが届いたのだった。ワクワクしながらメールを開く。
『今週の土曜の夜あいてる?夜間に荷物を送ろうと思うんだけど』  一瞬、デートの誘いかと思って飛び跳ねそうになったが、そうではないと知って少し落胆した。
『夜ならいると思う。何だろうな、楽しみ」
 短いメールを返信して、はベッドに寝転んだ。
 デートではないと言え、大好きな彼からプレゼント?が届くのだ。何が届くかは検討も付かないけれど、これは喜ぶべきことなのだ。まだ自分のことを気にかけてくれているという希望が膨らんだ。
 先生からの贈り物って、何だろう。まさかペアリングだったりしないよね。あ、でもあたしの指輪のサイズなんて知らないし、自分でも知らない。ははは、そんなはずないよね…。
 淡い期待を抱いては打ち消そうと努力した。

 いつもと変わらない土曜日を迎えた。大学の講義は休みだが、所属しているテニスサークルに顔を出した。
 中学、高校時代からテニスを続けている者も多少はいるが、メンバーの多くはのように初心者だった。
 先輩や経験者から基礎プレーを教えてもらい、下手なりにもラリーを続けて汗を流す。その後は部室でジュースを飲みながらおしゃべりしたり、早々に切り上げてバイトや遊びに行く者もいる。
 本格的な運動クラブというより、暇つぶし、あるいは交流が目的のようだった。大学生になったのだから、取りあえず、サークルに入っておきたい、あわよくば恋人も出来るかもしれないし…と考える学生達の集まりだった。
 は一時間ほど汗を流すと部室に戻り、同級生の友達と何となく話し込んでいた。そのうちに友達の一人が、街に遊びに行こうと言い出した。
 予定のないものたちが集まり、男子二人とも入れて女子三人で遊びに行くことになった。
 男子の中には小林も入っていた。今のところ、が一番仲の良い異性の友達かもしれない。彼は高校では、バスケット部に入っていたらしくインターハイにも出場したことがあるというから驚きだ。
 そんな彼が何故、美大に進み、テニスサークルに入ったのか。
 本人曰く、本当は派手なスポーツは向いていないのだと言う。家では静かに小説を読んだり、休みの日には美術館に行ったり、根暗なところもあるんだと笑いながら話したのを覚えている。
 正直にそんなことを告白した小林に対して、は好感を覚えた。元々、軽いノリの派手な男子は苦手だった。美術教師のを好きになったのもあり、落ち着いた男性がタイプになっていたのだろう。
 フリータイムでカラオケを存分に楽しんだ後、近くのファミレスで夕食をとった。
 大学生になってから外食の回数が急に増えた。なるべく自炊するようにしているが、友達との付き合いがあるのだからある程度は仕方が無い。
 バイト始めようかな。そしたら先生にも会いにいけるかも。いい加減会わないと、忘れられてしまうかも…。先生に限って浮気はしないと思うけど、多分。
 は友達のバイトの話を何度か聞くうちに、自分も何かバイトを始めたくなった。割と家が裕福なは、仕送りだけでも何とか生活できるが、欲しい服やアクセサリーを買ったりに会いに行くとなるともっとお金が必要だろう。
 社会経験にもなるし、友達ももっと増えるかもしれないし、やってみようかな。
 夕食を終えて会計を待っている際に、は入り口に置いてあった無料のバイト情報誌を一冊手に取った。
もバイト探すの?」
「うん。ちょっとやってみようかと思って」
「いいの見つけたら紹介してね」
「分かった」
 女友達もバイトを探しているみたいで、最初は誰か知っている人と一緒に出来たら安心だな、なんて考えていた。
 ファミレスを出ると、電車で大学の近くまで戻ってきた。
「これからどうする?誰かの家で飲むとか?」
 まだ解散するのは寂しいという風に、一人が尋ねた。
 今夜はから何か届くはずだから、一応家に居た方がいいよね。
「あたしはそろそろ帰らなきゃ…」
 が言うと、
「あー、俺も最近寝不足だから帰って寝るよ」
 小林もこの後は参加しないようだった。
「小林たち怪しいー」
「二人だけでデートですか!?」
 他の3人が疑いの目で見てからかってきた。
「そんなんじゃねーよ。なあ?」
 小林がに同意を求めてくるから、慌てて頷いた。
「うん!あたしは、知り合いから宅急便が届くから受け取らなきゃいけないし…」
「ふーん。まあ、何かあったら教えてよ。みんなでお祝いしてあげるから」
「おー、いいな。俺も彼女早く欲しいー!」
 取り留めのない話を数分すると、と小林は帰宅することになった。
「暗いから途中まで送ろうか?」
 歩き始めるとすぐに小林はに話しかけた。
「え?いいよいいよ。まだ人通りあるし、小林君疲れてるんでしょ」
 別に一緒に帰るのが嫌な訳ではないけれど、は小林を気遣った。
「大した距離じゃないでしょ。俺、○○アパートなんだけど…」
 小林はすぐには諦めない。
「…ああ、それなら近いね」
 お互いのアパートが近かったようで、は小林と一緒に帰ることにした。学生アパートが密集しているこの地区ではよくあることでだ。
 小林の住んでいるところは、駐車場付きで、間取りも少し広いということで、お金持ちの子が住んでいるらしいという噂があった。
 だからといって小林の方に気持ちが揺らぐわけではない。ただ話していて楽しい、安心できる男友達…。本当にそれだけ?
 と別れる日が来たら、この人に頼ってしまうかもしれない、いや頼ればいいんだという考えが浮かんだことがあり、は自分を恥じた。
  どうしよう…あたし、ずるいことばかり考えている。早く会いたいよ、先生…。
 そのためには早くバイトを見つけて、交通費などの資金を作らなきゃ。
「ねえ、小林君ってコンビニでバイトしてるんだよね?」
「うん、そうだけど?」
「バイト募集してないかな…?」
 早速頼りになる人物に聞いてみる。
「あー、そういえば、来月辞める人が一人いるから、これから募集するかも。店長に聞いてみるわ」
「ほんと?ありがとう」
 持つべきものは友達だ。特に積極的ではない真帆にとっては、知り合いの伝は本当に有難い。
「実はね、知らない人ばかりの所でバイトするの不安だったんだ…大学生になったのに駄目だね、あたし…」
「そんなことないって。誰だって最初は不安だよ。俺だって初日は緊張し過ぎて、いらっしゃいませとありがとうございますを間違えて言っちゃったし」
「そうなんだ〜マニュアルを覚えるまでが大変そうだね。あたし、ドジだから特に大変だろうな」
 話に夢中で、二人の横をスーツ姿のサラリーマンらしき人が通り過ぎたのに気にも留めなかった。
 最初は、二人きりで帰るなんて話がもつかどうか心配だったが、杞憂だったようだ。あっという間に小林のアパート付近にまで歩いて来たようだった。
「じゃあ、俺こっち曲がって帰るから」
「うん。送ってくれてありがとう。帰ったらゆっくり休んでね」
「サンキュ!ちゃんも、家近くだけど気をつけてな。またな」
 笑顔で別れた後も、胸が少し高鳴っていた。恋心ではないけれど小林と仲良くなれて本当に良かったと嬉しさでいっぱいだった。
 もっと仲良く慣れたらいいな。他のクラスメイトとも。
 先生と会えないのは寂しいけど、こんな風に友達と遊んだり、サークルに顔出してたら乗り越えられそうな気がする。
 今日のことを思い出してこれからの生活に希望が差したと思ったら、ふとある考えが頭をよぎった。
 同じように、東京にいる先生だってあたしの知らないうちに楽しくやってるかもしれない…。
 毎日女子生徒と顔を合わすし、美術部の指導で手取り足取り教えているかもしれないし。
 自分も生徒の分際で教師に近づいたのだ。同じことがないと言い切れるだろうか。
 やだ、先生…。
 辺りが静かになるとともに急に不安が押し寄せてきた。
 そうだ、今夜は先生からの荷物が届くんだった。
 早く中身を見てお礼を言わなきゃいけない。今夜こそ先生に電話するから!
 不安をかき消すように早足でアパートのまでの道を歩いていく。
アパートが見えて来た頃、は後ろを誰か歩いているのを感じた。
 自分と同じように早足で歩いてくる。
 同じアパートの人かな。この辺、大学生多いし。
 敷地内に入り、アパートの階段を2階まで駆け上って部屋の前に着いたがそれでも足音はついて来る。ここまで来れば多分大丈夫だろうけど、早く鍵を開けて部屋の中に入りたい気持ちがある。焦って鍵を探すのに梃子摺っていた。
 ついにその人物は2階まで到達し、顔を合わせたくはなかったがはそれがどのような人物かそっと確認した。  顔を見た瞬間、持っていた鍵を落としてしまう。
「なんで………」
 が驚いて立ちすくんでいると、彼は早足で駆け寄って来てを抱きしめた。
「プレゼント、届けに来た」
 
つづく

彼といつもより刺激的な♡エッチ

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