巻き戻された想い出(1) 投稿: 紅紫 様 ![]() 「もしもし、です…。です。」 携帯の電話帳から削除しても、記憶からは消すことのできなかった番号からの電話にが出ると、そこからはまぎれもないの懐かしい声が聞こえた。 の同僚と結婚することになり、春の気配が感じられる3月の初めに九州へ去ったの、5ヶ月ぶりの落ち着いた声に応えながらは鼓動が急に高くなるのを覚えた。 お盆の休暇を外して、結婚後初めての里帰りをすると言う。 会えるかと尋ねられて、断る理由などあるはずもなかった。 が実は既婚の自分に想いを寄せていることを、彼女の友人たちから冗談交じりに聞いていたではあったが、藤村洋一との結婚が決まったあと、本人から直接聞かされたのは去年の秋のの誕生日だった。 決まったことを覆すこともできないまま、は限られた時間の中で想い出を作ろうとし、決して発覚してはならない逢瀬に二人は苦しみながらも花火のように燃えた。 「元気にしてるの?」 「はい…」 みなとみらい駅の改札口で交わした短い会話が、空隙の月日を埋めるのに充分だった。 まだ、外は炎天下の金曜日の午後である。 周囲に知った顔がないことをさりげなく確かめながら、は地上へのエスカレータにをいざなった。 往来の多い共用通路を離れてさらにエスカレータに運ばれると、そこはエキゾチックさが醸し出されたホテルのロビーである。 手短なチェックインを済ませ、わざと吹き抜けのロビーを大回りしてふたりは、宿泊用エレベータに乗った。 「わあ、きれい」 昼下がりの狭い空間の背徳さを振り払うかのように、エレベータのかごの星空天井を見上げてが明るく言った。 そうしないと、これからのできごとに対する言い訳ができないような気がしていた。 毛足の長いカーペットの廊下をしばらく歩き、がおもむろにカードキーをポケットから取り出してルームの重いドアを開けると、そこにはレースのカーテン越しの夏の明るい日差しが部屋の中まで差し込んでいた。 「わあ、広い」 ここでもは小さな歓声を上げて、明るく振舞おうとしている。 窓辺へ寄ろうとして思い直し、赤のパンプスを脱ごうとしたをが後ろから抱きしめた。 「逢いたかった…」 無理に明るい表情を作っていたの顔が一瞬にして濡れたものになり、のほうに向き直った。 「わたしも…」 「ずっと、逢いたかった」 が答え、腕に力を込めると、は思わず吐息を漏らした。 互いの心臓の音が部屋中に響くかと思うほど高鳴っていた。 「こんな日があると思ってなかった…」 がそう言うと、は恥じらいながら黙ってうなづいた。 「わたしも… 我慢しようと思ってた…」 「ありがとう、嬉しい、すごく嬉しい」 はそう言うと腕に力を込めた。 「苦しい…、離して…」 「離すわけないだろ…」 胸がつぶれそうになるのを感じながら、息苦しさの中では溶けるような感覚に溺れていきそうだった。 むさぼるようなキスを浴びて、は漏れる声を止めることができなくなっていた。 「ファンデーションが付いちゃう…」 のシャツに色が移ることを気にしながら、は彼の愛撫を受け続けている。 はのことばを気にするようすもなく、その手のひらで彼女の身体の感覚を想い返していた。 あごを持ち上げてキスをし、首から胸へ、腰から背中へと我を忘れたかのように動き回る手に、の感覚が遠くなりかけた頃、ワンピースのままに抱かれて、はベッドへ運ばれた。 フロントの大きなボタンがいつのまにか外され、の左の手のひらがの胸をキャミソールの上から捉えていた。 「ああ…」 は両手をの首に巻きつけ、大きくあえいだ。 「さん…!」 めくれあがった裾にの手が伸びて、指先が膝裏から少しずつ上へ這ってくると、それだけでの声は止まらなくなっていた。 「だめ、お願い…」 抗いながらも、理性を抑えられなくなっているのがにはよくわかっていた。 「逢いたかったよ、…」 「わたしも、ずっと…、ああ…」 「大好きだよ、…」 「わたしも、大好き… ああっ…」 の手のひらがの胸を包んで、指先が乳首を転がしている。 「だめっ…、ああっ…、感じちゃう…」 「っ、可愛いよ」 「だめっ…、いやっ…」 力強い指先がストッキングの上から太ももを伝い、の敏感な部分を探り当ててきた。 自分のそこがどうなっているかわかって、はたまらなくなった。 脚を閉じていることができなくなり、自然との指をほしがっていた。 腰がねじれ、脚のつま先が反る。 ストッキングのシームの上からショーツ越しになぞられて、あふれていくのが自分でも恥ずかしかった。 「もう、こんなになってる…」 「いやっ、言わないで」 「だって、こんなにあふれてる」 「さん! だめっ、いやっ」 「…」 「だめっ、もうだめになっちゃう!」 「!」 「いやっ、だめっ!」 の指先の動きが激しさを増し、の脚に力が入ってつま先までピンと伸びる。 無意識のうちに少しずつ腰が浮いていく。 「もうだめ…」 「、おいで!」 「いやっ、このままじゃだめっ」 服を着たまま、果ててしまうことがには恥ずかしかったが、もう止めようがなかった。 「っ、もっと感じて!、もっと良くなって!」 「いやぁっ!だめっ」 「可愛いよ、大好きだよっ!」 「ああっ…だめっ、いっちゃう…」 「きて!」 「だめ、もうだめっ!」 の首に回したの手が彼の背中をかきむしり、腰が大きく宙に浮いた。 「だめっ、いっちゃう」 「っ!可愛いよ!っ」 「いやっ、さん、いっちゃう、いっちゃう!… いく…いく…、いく、いく、いくっ!」 胸から上を朱に染めて、が激しく果て、ベッドの上で何度も震えた。 波打つストッキングに陽が当たって、つややかに輝いていた。 つづく・・・ 女性のための官能小説・目次 |