二人の悪魔 1 名前変換
、来てくれたのぉー?」
 廊下からの甘えた声が聞こえてきて、あたしは思わず溜め息をついた。
 携帯電話を見たけれど、誰からもメールは届いていなくて余計に惨めな気持ちになった。
 あたしは、20歳。隣の部屋でいちゃついているだろう女は、双子の妹のだ。
 2LDKのアパートに二人で住んでいる。少々家賃は高いが、別々のアパートを借りるよりは安いので、親に決められてしまった。
 とは、幼稚園も小学校も中学校も高校も大学までもずっと同じだ。外見も声も親しい友達でもよく間違える程、酷似している。身長や体重もほぼ同じ。胸も同じサイズだ。
 学校の成績も同じ位で中の上と言ったところだろうか。
 でもあたしはに対して大きなコンプレックスを抱いている。
 それは異性関係。には中学生の時から、切れ間無く彼氏がいる。持ち前の社交的な性格とあの男を悩殺する笑顔のせいなのだろう。
 好きになった人には悩む間もなく自分からアタックして、ほぼ100%の確率で付き合うことが出来ている。
 それに対してあたしは、今までたった一人としか付き合ったことが ない。昨年、その最愛の彼にも振られてしまった。理由は、のことを好きになってしまったのだそうだ。しかし、には彼氏がいたため、どうすることも出来なかったのが唯一の救いだ。
 今年好きになったバイト先の人とも、あたしは仲良くなるのに時間がかかった。
 そうこうしているうちに、があたしと同じバイトをしたいと言い出して、本当に始めてしまった。そして嫌な予感は的中した。
 と彼が付き合い始めたのだ。
 今うちに遊びに来ているのが正にその人。あいつにとっては珍しく、半年も続いている。
「…やだぁ………」
 聞きたくない声が壁越しに聞こえてきて、あたしは急いでヘッドホンをして音楽を流した。
 が傍にいる限り、あたしはずっと幸せな恋が出来ないかもしれない。地味でもいいから、自分らしく恋をして、妹のことを気にしないで生活したい。
 親の反対を押し切ってでも違う大学に行けば良かったと、後悔することが何度もある。
 就職する時は絶対にとは違う県に行ってやると誓った。

『今日は友達の家に泊まるから。男呼んでもいいよ〜(ノ∀≦。)』
 一人で夕食の準備をしていると、からメールが届いた。
 ふん、彼氏なんていないの分かってるくせに嫌味なヤツ。
 それでもの朝食の分を残してあげてしまう。昔からあたしは面倒見が良くて妹に甘いのだ。だからあんなにワガママに育ってしまったのかもしれない。
 もしも、あたしの方が後に産まれていたら人生が変わっていただろうか。大好きな彼氏と毎晩いちゃいちゃできたのだろうか。
 考えても仕方ない。あたしはテレビをつけてお笑い番組を見ながら缶ビールを飲んだ。
 今日はがいないから自由に過ごせる。お風呂に入ってから、溜まっている欲求不満を解消するのもいいかもしれない。にも誰にも言えない方法で…。

「ピンポーン」
 玄関のチャイムが鳴ったような気がするけど、あたしはソファに寝転がったまま動こうとしなかった。たったビール一本でほろ酔いになれるなんて、安上がりな身体であろう。シラフだったら、、泊まってくるんじゃなかったのー?と、文句を言ったに違いない。
「あ、寝てたんだ?」
「うーん?」
 寝たまま返事をしたけど、ふと何かおかしい事に気が付いた。あたしはじゃなくて、なんだけどぉ…。それにこの声はもしかして…。
 ぱっと目を開けると、そこにはの彼氏が立っていた。
 そして彼はあたしの上にまたがると、いきなりキスしてきやがった。逃げる暇もなかった。
「ウソ…」
 ドッキリ企画で騙された人のように、あたしは目をぱちぱちしていたと思う。
「びっくりした?」
 彼に尋ねられて、あたしはうんと頷いた。
「今日、の誕生日だろう?俺が忘れるとでも思った?」
「誕生日かぁ…」
 ということは、当然あたしの誕生日でもある。一緒に祝ってくれる相手もいない上に、ただ年を重ねるだけの嫌な日だ。
 それにしても、君は本気であたしのことをだと思っているらしい。あたしの中の悪魔がこっそり囁いた。このままのフリをして、普段君がにどんなことを言っているのか知りたくない?
 うん、知りたい。思考力と良心が低下しているあたしはすぐにそう答えた。
「来る前に連絡くれたら良かったのにぃー」
 が話す口調を真似て言った。
 妹の癖は、姉である自分が誰よりもよく知っている。きっと半年付き合っただけの君よりもずっと。
「それじゃサプライズにならないだろ?たまにはを寂しがらせてやろうと思って」
 ・・・可哀想な君。誕生日だというのに、今頃はどこで何をしているのだろう。あいつのことだから、他の男に会いに行ってるのかもしれない。
 ああ、これはますますのフリを頑張らなくっちゃ。適当にお話してプレゼント貰ってから、帰ってもらえばいいよね。
「ねえ、冷蔵庫にチューハイあるからとって」
「俺も飲んでいい?」
「いいよーどれでもとって」
 君から渡された冷えた桃の缶チューハイを開けて、ごくごく飲んだ。泥酔していて記憶にないってことにすれば、見逃されるよね。あたしが酒に弱いことはも知っているんだから。
「おい、あんまり飲むなよ」
「何でー?」
「おまえはすぐ酔っ払って寝るんだから」
 そうだ。姉妹揃って、アルコールの分解速度が遅いのだった。
「別にいいじゃん。今日は飲みたい気分なのよ」
 さっきまでくんが飲んでいた缶を手にとろうとしたが、彼に取り上げられてしまった。
「駄目。寝ちゃったらできなくなるだろ?」
 彼はあたしの肩を押さえると、顔を近づけてくる。
「な、何が…?」
「言って欲しいの?」
 どんどん近づいてくる彼から逃れられず、あたしは首を縦に振った。
「エッチ」
 彼はあたしの耳元で囁いた。
 まずい!この人、やる気だ。恋人同士なんだから当然なんだけど、姉が同居してるって知っていながら堂々とやろうとするなんて、 礼儀がないというか、いつも隣の部屋で聞かされるあたしの気にもなってよー!
 「いいじゃん、このままやっちゃえば」
 悪魔が再び囁いて、誘惑する。
 キスはされちゃったけど、さすがにエッチは駄目でしょ…。
 「1回ぐらい別にいいって。昔好きで狙ってたんでしょ?それを 後から来た妹に取られてしまって、悔しくないの?あとで謝って おけば、彼もにばれたくないから、きっと黙ってるよ」
 そうだよね。いつもあたしばっかり損してるんだから、1回ぐらい流されてしちゃっても神様は許してくれるよね?
 あたしはまたもや悪魔に唆されている。天使の力が弱っているのは、慣れないお酒を飲んだからだと思いたい。
「今日、ちゃんいるの?」
「いない…けど」
「そうか。じゃあ、今日は色々できるな」

 君はあたしをお姫様抱っこしての部屋へ連れていく。
 色々って何する気なの??がどんな風に抱かれてるのか、君がどんなエッチをするのか知りたい…。なんて心の中で言ってるけど、本当は自分が彼に抱かれたいんでしょ。今でも嫌いになんかなれないんだもの。
 のベッドに降ろされて、憧れだった彼が覆い被さってくる。
「今日の、めちゃくちゃ可愛い」
 ドキッ。
「そう?いつもと同じだよぉ」
 ってことは、あたしの方がより可愛いかったりして。なんてね。
 彼の素早いキスに驚いて、息が止まりそうになる。
 何度もあたしの唇を甘噛みしてきて、君とキスしているという事実だけで眩暈がする。
 妹の彼氏としているから、余計に燃えるのかもしれない。
 あぁっ…。
 口の中に彼の舌が入ってきた時、あたしのパンツは多分濡れた。どっと出てしまった。
 駄目駄目。キスだけでこんなに感じちゃって、どうするのよ!?
 別にいいじゃない。どうせ悪いことしてるんだし、思いっきり感じて声出して楽しみなよ。
 元々エッチなのか、彼の舌が口の中を動く度にどんどん感じて しまう。すごくエロい顔をしてるかもしれない。君の舌に 絡ませた。互いの唇が離れると、唾液が細い糸を引いた。
、キス上手くなった?どっかで練習してんじゃないだろう な」
「は…?何言ってるの。そんなことする訳ないじゃないー」
 キスが上手なんて言われて嬉しいけど、のことを想って言ってるわけで…。複雑な気分。
 ああ、こんなに気持ちのいいキスなら毎日してもいいかな。今度はあたしがから彼を奪う?ううん、そんなこと小心者のあたしには出来ないし、人の彼氏をとって付き合っても嬉しくない。じゃあ、今やってるのも断ればいいじゃない。そう思うけど身体が動かない。彼の手で魔法をかけられたみたいに、彼に従順になってベッドの上で淫らに溶かされていく。
 発情している彼にうっとりしているうちに、あたしの上半身はブラジャーだけになっていた。彼、素早いぞ!このままではあっという間に下も脱がされて、あそこを見られてしまう。
「ちょ、ちょっと待って」
 彼はブラのホックを片手で外し、剥ぎ取ろうとしている。
「待たない。おまえエロいから、もう限界」
 誰がエロいって?迫って来たのはそっちでしょうが。 あんたに憧れてたんだから、流されるのは当然でしょ!
 ああ、もう本当にやっちゃうよ。ちょっとだけごめんね、 。見られる寸前に、あたしは両手で胸を隠した。そしてドアの隙間から覗いているある人物と目が合い、呆然とする。
「どうしたの?やけに恥ずかしがって。そんなことされたら俺、余計に燃えるよ」
 いや、そうじゃなくって。
 君はジャケットとシャツを脱ぐと上半身裸になって戦闘体勢に入った。
 しかし、あたしが変な方向を向いて固まっているのに気付いて、彼は後ろを振り返った。そして同じように凍りついた。
「う、あ…」
 いつから居たのだろう。家に入ってきたのに全く気付かなかった。
そこにはが目を細めて、腕組みをして立っていた。
「あ、ちゃん…ごめんね。いつも遊びに来て迷惑だったかな…ははは…」
 彼は何も言わないにビビッて謝っている。この状況をどうやって切り抜けよう。いや、どうにもならないのは分かっている。怒るなり、追い出すなり何とでもして下さい・・・。唾を呑み込んで覚悟を決めた。
 不安そうなあたし達を見て、は笑顔を作った。
「どうも。いつも妹がお世話になってます」
 は?妹?
「こ、こちらこそ、さんとお付き合いさせてもらってありがとうございます」
 君は気が動転して何故かお礼を言っている。
「あ、ごめんね。邪魔しちゃって」
「いえ…いつもうるさくしてすみません…」
 墓穴を掘った君。これじゃいつもうちでエッチしてると言ってるようなものだ。こんな状況で悪いけれど、笑ってしまいそうになる。
 がいなくなっても君は落ち込んでいた。
「やっぱり隣に聞こえてたのかな…」
「安物のアパートだもの。多少は聞こえるでしょ」
 あれだけがでかい声出してれば聞こえるわ。ということは、彼も相当なテクニックをお持ちなのだろうか。
「今度からんちではやらないようにするか」
「そうだねぇ…」
 その方があたしも嬉しいよ。好きだった人と妹とのエッチを生々しく感じさせられるのは辛いものがある。でもちょっと興奮したこともあったりして。

 さて、は相当怒ってるみたいだし、これからどうしよう。
 黙ってるより、怒ってもいいから何か言ってくれた方がマシなんだけどな…。
「萎えちゃったな…」
 君はぼそっと呟くと、上着をとって着ようとした。
「ほら、も服着ろよ」
「そうだね」
 着せてーとでも言おうかと思った時、はっとして口を閉じた。
 ドアが開いて、再びが部屋を覗き込んだのだ。今度こそ正体を明かして、こっぴどく叱られるかもしれない。
 しかし、は余裕の表情で笑みを浮かべて言った。
「二人とも続けていいよ」
 が言った意味がよく分からなかった。君も何のことかと戸惑っているようだ。
「…エッチしようとしてたんでしょ?やっていいよ」
 は?この女は何を言い出すか。ショックのあまり、おかしくなってしまったのではないだろうかと心配になる。
「い、いや…僕そろそろ御暇しますので…」
 赤くなった君は声まで上ずっている。
 は無言で部屋にずかずか入り込んできた。ここは彼女の部屋だから怒れるはずもないが…。の格好を見てあたし達は仰天した。下着姿だったのだ。それもお揃いの黒のブラジャーとパンティで、まるで勝負下着のようである。
 そのままはベッドの上に飛び乗った。君が目を白黒させる。
「あんた…酔っ払ってる?」
「別に。こんなの普通よ」
 自分も飲んでいるから人のことは言えないが、は相当お酒臭い。
「ねえ、3人でしようよー」
「は!?」
 完全に目が据わっている。他の男に会いに行って、上手くいかなかったのかもしれない。まったく、君という彼氏がいながら浮気するとは。あたしも妹の彼氏と寝ようとしていたけれど。
 君もさっさと帰ったらいいのに、悲しい男の性なのか、のセクシーな下着姿に目を奪われていたようだ。モジモジしてベッド から出られない状態になっている。
「あたしの方がきっとより上手いわよ。たまには3Pなんて楽しそうでしょ?」
 そう言うと、両手を胸に当てて妖しく微笑んだ。姉のフリをして一体何をしようというのか。
「こら…」
 止めなさいとも言えない。君の彼女なんだから、本来は何をしても良いはずだ。
「もう我慢できない。あたしが君を攻めちゃおっと」
 はぼーっとしている君に抱きつくと強引に押し倒した。

next→

秘密の液体で潤うエッチ

女性のための官能小説・目次