シンデレラになるまで(5) 
の横顔を見ながら、は胸の鼓動が早くなっていった。
彼の肩にぴったりと寄り添って歩く。
も熱い眼差しでを見つめ、ズボンのポケットの中のものをそっと確認していた。
部屋に戻ると、二人は自然にベッドルームへと向かった。
天蓋付きの豪華なベッドで、王子様に初めて抱かれる。
ベッドの前まで来ると、はを抱っこしてベッドの上に降ろした。急に男らしさを見せつけられて、は身構える。
「そんなに緊張すんなよ。こっちまで焦ってくるじゃねえか」
カチコチに固くなっているを感じたが宥める。
「だって、その……初めてなんだから仕方ないでしょう」
二人きりで過ごすのは慣れたけれど、ロマンチックな雰囲気になるのは何だかやりにくい。
好きな気持ちが強すぎて、見つめられるだけでいっぱいいっぱいで、体中から愛が溢れ出してしまいそうだ。
「ふーん…おまえ、やっぱり処女だったのか」
はの隣に寝転んだ。
「悪かったね。まだ二十歳なんだから別にいいでしょっ」
真っ赤になったは、枕をとってにぶつけようとしたが簡単に制止される。
から枕を奪い取ると、彼女を抱き寄せた。
互いの心臓の音が聞こえそうな位、ぴったりくっついている。
「が処女だろうが、俺が好きなのはおまえだけだからな。おまえがどんなに貧相なカラダでも気にすんな」
「貧相で悪かったね!」
拗ねるを心からは愛しいと思った。
「冗談だよ。俺にとっては世界一魅力的だ…」
これ以上話さないように、の唇を自分のものでしっかり塞いだ。
優しく、それでいて力強く、何度も唇をついばむ。
初めてキスをされてから、もう半年以上は経った。あの時は酔っていて夢の中でのキスだったが、は本能的に感じていたのかもしれない。
何度キスされてもまだドキドキする。
キス以上のことをされるのかスリルがあったのも勿論だが、 身体が彼を求めていることも分かっていた。
になら初めて抱かれてもいい。いや、この人以外は考えられない。別に二十歳になったから早く経験したいと焦っているということはない。本当に好きな人と結ばれることを夢見ていたのだから…。
の口元から甘い吐息が漏れるのを確認すると、は深く舌を差し入れた。の意識がある時では初めてのディープキスだった。
他人のものが口腔内に入ってくることに戸惑いながらも、歯茎や舌先を撫でられていると、体の芯が熱くなってきた。
互いの舌が擦れ合って奏でる水音が、気持ちを昂ぶらせていく。
「ふぅ…ん……んっ…」
自分がこんなにエッチな声を出しているなんて、考えただけで顔から火が出そうだ。
「俺に任せておけ」
はを見つめると、ぎこちなく笑って頷いた。
の唇がの唇から離れると、耳元に移動した。
触れられるだけで、何故だか堪らない気持ちになってしまう。くすぐったいのと、もどかしい気持ちが入り交ざって、溜め息が出てしまう。
ふいに、耳朶が濡れた感触がした。の肩はピクッと反応し、あっと小さな声を出した。
初々しくて、いつもよりも女らしくなったを見て、の興奮も急速に高まっていく。初めてホテルで一緒に寝てからずっと、待ちわびていたのだ。
が夕方に使ったシャンプーの香りを胸いっぱいに吸い込むと、益々愛しい気持ちが膨らむ。
今まで表面上は偉そうにしてきたけれど、を大切に想う気持ちは誰にも負けない自信がある。
少々荒っぽいやり方だとしても、に喜んでもらいたい一心で家業を手伝い、沢山貯金をして豪華旅行に連れて来ることが出来た。
(最高の初体験にしてやるからな…)
女の方からに寄ってくることはあったが、自分から付き合いたいと思ったのは初めてだった。
愛しい女を組み敷いて、我を忘れそうになるのを堪えながら、の体をじっくり愛撫する。
パレオの結び目をほどいて、隠された部分を顕わにしていく。
水色の大きな花柄のパレオはが見立てたもので、に良く似合っていた。
下着姿になったは体を縮こまらせて、恥ずかしさと格闘いるようだった。かすかに震えているに、は優しく問い掛ける。
「怖いか…?」
「うん…ちょっとだけ…」
「まあ女なんだから仕方ねえよな。俺もまだまだ修行が足りないけど…でもこれから先ずっと、俺がおまえを守ってみせる」
の瞳にはまだ不安が残っていたが、笑顔で首を縦に振った。
初めて自分のことを守ると強く言ってくれたこの男を信じて、ついていきたい。
胸を隠していた手を恐る恐る横に外した。
タヒチに来て少し焼けた肌にキスしながら、の下着を剥ぎ取る。
薄暗がりの中で、清楚に佇む小さな蕾を目にした。
それは、南国に咲くどんな華やかな花よりもの心を惹きつけた。
「んっ…ぁ……ふぁ…」
の唇が蕾を捕らえ、の口からか細い声が漏れる。
どこで覚えてきたのだろうか。絶妙な力加減で先端を舌先で転がされ、甘噛みされ、下半身のある部分が急激に熱く疼く。
我慢しようと思っても難しい。今までに感じたことのない強烈な快感で体中が蕩けてしまいそうになる。
反応を見て、も初めての感覚に心を支配されていた。
今まで女性にこんなに喜んでもらいたいと思ったことはない。
正直、好きな仕事ができれば女なんてどうでも良いと考えていた。どうせ親の決めた良家のお嬢様なんかと結婚して、適当にセックスするのだろうと。
「感じてるんだろう?」
「ん……」
「もっと声出せよ」
「…やだ」
ちらりとの顔を盗み見ると、眉をしかめて口が半開きになり、いつもは子供っぽい彼女と違ってとてもセクシーだった。は自らの欲望を抑えるのに必死だ。
爆発しそうになるものを宥めながら、言葉を口に出す。何か話していないと暴走してしまいそうだった。
「そう言うと思ったけど…。まあいいや。そのうち俺が出させてやるから」
の手がの下腹を這い、太股の方に移動すると、は息を潜めて身構えている。
急いで自らのTシャツとハーフパンツを脱ぐと、逞しい体が現れた。
は自分だけ裸になって心許なかったのだが、彼も服を脱ぐことによって少しほっとする。しかしそれは、これから「本格的に」始まるということを意味する。
(好きなんだから大丈夫…!)
リラックスしなきゃと言い聞かせながら、の手の行方を肌で感じる。
ショーツの中心をの指先がなぞる。
官能に濡れた花弁の上を、形を確かめるようにそっと上下に擦る。
薄いシルクのクロッチに湿り気を感じた。
泉の上に布を押し付けるようにすると、益々水分が吸収されてシミが形成される。
「そんな…やだ……汚れちゃう…」
(恥ずかしい…くい込んじゃうよ…)
「じゃあ脱げばいい」
「やっ……」
はの最後の衣服を取り払い、麗しい女性自身が晒された。
彼もトランクスを脱ぐと、の体を包み込むように抱いた。
波の音と二人の吐息だけが聞こえる。
「そういえば、窓開いてる…」
「こんな所、誰も入ってきやしねえよ。他のカップルも今頃最中だろうよ」
「ば、ばか!」
そうだ。ここはアツアツのカップルが多く訪れる所なのだ。
でも面と向かって言われると、慣れていないには刺激が強すぎる。
「俺達だって愛し合ってるしな」
より一層男の表情になったは、の唇を吸った。
唾液が混ざり合い、この熱気に負けない程の熱いキスを交わす。
の隆起した男性自身がのお腹に当たり、鼓動が高まる。
恥ずかしくて堪らないのに、身体は火照って彼を求めてしまう。
の指がの潤みを探る。夜露に濡れた花びらを慈しむようにそっと弄ぶ。
泥蜜が湧き出す泉の中に指を埋めていった。
「あ……」
壁を押し広げながら、が体内に侵入してくる違和感に戸惑う。
を傷つけないように細心の注意を払いながら、は狭い洞窟を柔らかくなるようにほぐす。
彼女の恐怖を和らげるために、優しくキスを落とす。
愛する人の想いが伝わって、は最高に幸せだった。出会いは合コンだったけれど、あの時に会えて良かった…。
やがて、溢れ出す液体によって下半身から粘着質な音が奏でられるようになる。
「いやっ…やめて……」
身を捩じらせて逃げようとするが、は抜こうとしない。
「痛くないなら別にいいだろ。気持ちいいことは恥ずかしいことじゃない」
「でも…」
こんな卑猥な音をたてられたら、自分がすごくいやらしいと言われてるみたいだ。
「余計なこと考えないで、俺を感じてろ」
の熱っぽい瞳に心をうたれたは、大人しくなる。
はのざらざらした一点を擦りながら、膨らんで弾けそうになった芽を弄る。
「あぁっ…」
身体が小刻みにヒクつくのを止められない。
奥の方から何か込み上げてくるものがある。
その妖しい指遣いは、確実にを高みへと追いやっていった。
空高く昇ったサザンクロスを人々が愛を語りながら眺める頃、二人は静かに一つになった。
広いベッドの上で、穏やかな小波のようにの腰が揺れる。
頬に当たる優しい風がの初めての痛みを和らげてくれる。
擦れ合う部分がさらなる熱を生み出していく。
完全に一つになることなんて出来ないけれど、互いの体温を感じながら愛を語り合うだけで、充分過ぎるほど幸福に満たされる。
はを気遣いながら、優しく抽送を続ける。
しかし、徐々に動きが早くなるのを止められなくなる。
もうをからかう余裕もない。
初めての感触に包まれ、最後が来るのを必死で耐えていた。
彼が自分を見つめながら汗を流してくれているのを見て、の中心が疼く。
愛しい女性の切なげな顔を見据えながら、は精を解き放った。
二人はタハア島に3日間滞在した後、ハネムーナーに特に人気があるボラボラ島へと移動した。青いラグーンの後ろに佇む美しい山の眺めがまた最高だった。
退屈になるかもしれないと予想していた旅行だったが、過ぎてみれば1週間はあっという間だった。明日には日本へ帰らなければいけない。
ふいに会話がとぎれた時に二人が考えていることは同じだろう。
出来ることならここでもっと愛し合いたい。
にとっては一生に一度、運が良ければ来れるかもしれないという贅沢な旅行であって、この旅が終われば二度とこんな機会は来ないかもしれない。
が少しうかない表情をしているのを見たは、どうしようもなく胸が切なくなりのために何かできないか考えた。
「星でも観にいくか」
「今から?もう真っ暗だよ」
「暗くなきゃ見えねえだろ。早く用意しろ」
相変わらず乱暴に言い放つと、はホテルのフロントに電話をして何かを聞いているようだった。
「よし、綺麗に見える場所が分かった。行くぞ」
外に出てもホテルの照明のおかげで、しばらくは明るい道が続いているが歩いているうちに、辺りがだんだん暗くなってきた。
「ねえ、大丈夫なの?」
が心配そうに尋ねる。
「ああ、もうすぐだから」
は息をきらせているの手を引くと、小高い丘に登っていった。
「そろそろいいかな…」
坂道を数分登って開けた場所につくと、既に何人か観光客がいてそのほとんどが男女のカップルだった。
とは手を繋いだまま空を見上げた。
「ほんときれいだねー。星が降ってきそう…」
「だな」
大きな空を眺めていると、このまま二人で暗闇に溶けてしまいそうに感じた。日本の最先端のプラネタリウムでも叶わない最高の夜空だ。
「、見てみろ。あれが南十字星だよ」
ふいにが大空を指差した。しかし、夜空には無数に十字っぽい星の並びがあってはあーでもない、こうでもないとに教える。
「あー…あれかな?」
「おまえ、ほんとに分かってんのかよ」
が楽しそうに笑うと、暗闇の中で二人の目が合った。
他人が空を見上げている間に、こっそりキスを交わす。
外でキスなんて考えられなかったも、今は彼の唇が愛しくて仕方が無い。そして彼の逞しい身体も…。
「あたし…あんたと一緒にいてもいいかな」
「は?何だよそれ」
は雰囲気に任せて、照れながらも愛を伝えた。本当の想いは言葉では言い表すことなんて出来ないけれど。
ホテルに戻ると、どちらからともなく求め合った。
は前回よりも余裕が出てきたが、まだ身体を見られるのは気恥ずかしい。
内側から湧き上がってくる快感にもか細い声で答えるしかできない。それでもの背中をぎゅっと抱きしめて、何とか答えようとする。
はの温かさと心地よい窮屈さを感じながら、の髪の毛を優しく撫でた。
「そう言えば、お前って俺の名前呼んだことないよな?」
「…そうだっけ?」
以前から気にしていることを言われて、は心臓が高鳴った。
「いい加減、名前呼べよ」
「それ言ったら、あんただって未だにって言ってるでしょ」
痛いところをつかれたのか、は黙ってしまった。
の敏感になっている胸の先を口に含み、丁寧に愛した。
「あっ……」
さらに片方の手で、下半身の蕾に触れると丁度良い加減に押し付ける。一瞬にして身体が熱くなり、透明な蜜がどっと溢れ出した。
「あぁ……ん…」
とても気持ち良いと伝えたいけれど、そんなことは言えない。小さく呻いていると、その時ついに。
「、愛してる」
嬉しい不意打ちに、の蕩けきっていた内側は小さく収縮した。快感と愛しさに飲み込まれてしまいそうになりながら、に応えた。
「ん………あたしも、すきだよ…」
名前を呼ばれたは、今まで我慢していた射精欲を抑えきれなくなる。情けないが、本当に好きな女性とだと早くなってしまうらしい。
は初めての時よりさらに高まりを感じながら、の愛欲を身体の奥深くで受け止めた。
まだ慣れないせいか、顔を合わすことに照れていた。
自分たちのセックスが人と比べてどうとか分からない。けれど、二人で抱き合う瞬間が幸せなのは確実だった。
とうとう、日本に帰る日がやってきた。しかし、は最後の最後に最高のイベントを計画してくれていた。
一日一組限定のプライベート・モツ・ピクニックだ。
迎えのボートが来て、小さな島(モツ)まで連れて行ってもらう。
はアットホームなスタッフと片言の英語でコミュニケーションをとり、
分からない言葉はに説明してもらった。
どこまでも透き通る遠浅のアクアマリンのビーチにテーブルと日除け用の大きなパラソルが設置されていた。
「何これ?」
「ここでランチとるんだよ」
「え?ここで!?」
椅子に座ると、足首まで水に浸かりながら食事をすることになる。まさかこんな所で食事することが出来るなんて…。
砂浜を散歩していると、シェフが着々と準備してくれているようだった。
「Come and get it!」
しばらくすると、手を振りながら叫んだ。
「準備できたから来いって」
とがテーブルに向かい合って座ると、シェフがシャンパンのコルクを飛ばした。
「わぁ……真っ昼間からお酒…」
「It's looks very delicious.Thank you very much!」
がシェフに笑顔でお礼を言い、も慌ててサンキューと告げた。
景色だけでなく、マグロとフルーツのマリネや、チキングリルなど食事の内容も満足できるものだった。
お腹も大分満たされ、残すはデザートのみとなった。
はに小さな小箱を渡した。
「これは…?」
「開けてみろよ」
「何だろ…」
が箱を開けると、中からクロスモチーフのネックレスが現れた。クロス部分には透明の石が幾つもついており、ぎらぎら光っている。きっと高価なダイヤモンドなのだろう。あまりの美しさには言葉を失った。
「南十字星のネックレスだよ。それ、にやるよ」
「え!?いいよ…こんな高そうなもの」
「俺がデザインしたものだから有難く受け取れ。せっかく今日、ここで渡そうと思ってたんだから…。バイト代、まだ渡してなかっただろ?」
「だって、バイト代ってこの旅行でしょ…?これだけですごく高いのに…」
(があたしのためにデザイン…)
遠慮しながらも、の胸の奥が切なく揺れた。
「ったく、素直に受け取れって…」
は椅子から立ち上がると、の傍に来て手を差し出した。
「!俺と結婚してくれ」
「…え?え…?」
突然のことには動揺してどう答えていいのか分からない。
(どうしよう、早く何か言わなきゃ…)
自信たっぷりのの瞳に釘付けになり、彼の手をとって答えてしまった。
「はい!」
熱い風が髪の毛を揺らす。
「Congratulations!!」
いつの間にかスタッフが傍に来ていて、二人に祝福の拍手を送った。
はを抱き上げると、水しぶきを上げながらくるくる回った。の目にはどこまでも澄み渡る水色の水面がにじんで映っていた。
―――――終わり―――――
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