今時プラトニックな彼女 5
 それからの俺は、何十社もの会社説明会に参加し試験を受け、幾度となく振り落とされては、やっとのことで2社の内定をもらう事ができた。
 そして今日は理香子の公務員2次試験の結果発表の日だ。
 彼女には悪いけど、合格したとしても素直に喜ぶことができるはずがない。だって受かったら遠くに行ってしまうのだから・・・。
 俺は大学の研究室に篭りながら、理香子からのメールを待つことにした。
 ようやく作業に集中し始めた頃、携帯から彼女専用の着メロが聴こえてきた。
 作業がひと段落すると、手に汗を握りながら恐る恐るメールを確認しようとした。緊張のあまり、携帯の操作がぎこちなくなり電話帳を開いてしまったりした。
 文章を見た途端、手足が急に冷たくなり、目の前が暗くなった。

 そこには『試験合格したよ♪』の文字が打たれてあった。
 少し時間を置いて気持ちを落ち着いてから『おめでとう』と返信した。
 これで卒業後は理香子は地元へ帰り地方公務員を務めることが決まってしまった。一方、俺はここに残って商社に勤務するから、二人の間の距離は約500kmになってしまう。
 嫉妬や寂しさで今まで以上に苦労する恋愛になるだろうな。
 先の見えない恋愛に一瞬ひるんでしまったが、ここまで我慢したんだからあと数年離れ離れになるのも大したことはないと思いたい。
 「距離は離れても心は離さない」と強く心に誓った。

 卒業式の翌日、理香子は電車に乗って、遠い遠い異国の地と言いたくなる場所に旅立って行く。
 見送りに行った駅の雑踏の中で、俺は彼女に約束を告げた。
「就職して自信がついたら必ず迎えにいくから」
「うん。待ってるね」
 そう言ってくれた彼女の輝いている瞳を信じたい。
 彼女が去った後、自分の魂まで持っていかれそうになるのを堪えながら人混みをすり抜けた。

◇ ◇ ◇

 就職して半年が経った頃、京都で就職したクラスメイトたちが集まって小さな同窓会を開いた。
 仕事の愚痴をこぼしながらも、みんな明るい笑顔を見せていた。社会人になり、自分で稼いでいることに誇りを持っている者たち。きっと悩み、苦しみながらも少しずつ成長していくことだろう。
 祇園の和菓子屋で営業をしているという雄二も来ていた。俺を見つけると、ニヤニヤしながら近寄ってきた。
「お前、まだ理香っちと付き合ってんの?」
「・・・ああ」
 別れた、と言って欲しそうな口調である。
「遠距離恋愛なんて止めとけよ。どうせあっちも浮気してるんじゃないか?」
「うるせー!あっちもって何だよ。俺はしてないからな」
 彼女もいない奴に言われたくないと腹を立てながら、同じように会社の同僚からも「遠恋は良いことがない」と言われたことを思い出し、ますます気分が悪くなった。

 寂しくなったら近場の女に手を出して上手くやる事が偉いとは思わない。
 一人の女を想って純情でいることの何が悪い。しかし、あの理香子のことだから誰にでも 愛想良くして、男の知り合いも沢山できていることだろう…。
 強がっていて誰にも言えなかったが、遠距離恋愛中に味わった不安は予想以上に大きかった。
 仕事に疲れていて連絡があまり取れなくなったこと、デートの別れ際が寂しすぎて会うのを躊躇ってしまったこと、俺の変な心配によって理香子を困らせてしまったことなど、二人の間には様々な障害が訪れた。

 でも、ボロボロになりながらも俺は踏ん張った。
 あれから3年半の月日が流れ、ある日の休日の夕方、俺は理香子との結納を済ませた後、二人でホテルでくつろいでいた。
 就職して3年目には、ようやく彼女の両親に挨拶に行くことができたのだ。
 来年の春には彼女は京都に来て一緒に暮らすことが決まっている。結婚式は夏頃になるだろう。
 明日の昼には再び離れ離れになってしまうが、今夜は一緒に過ごせる。彼女のお母さんが気を遣ってくれて、二人分の部屋を予約してくれたのだ。これはお許しが出たということなのだろうか…。

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