Please teach me!! 3 (関連作品:当直室での秘め事

 一日分の着替えを詰めたカバンを持って、うきうきしながらさん・・・じゃなくて、の車に乗り込んだ。
 海岸沿いの道を走りながら、私は出会ったときのことを思い出していた。 はじめは怖い人だなと思って、やっぱり怖くて。でも海で倒れた所を助けてもらって。

「どっか行きたいとこあるか?」
 膝においていた手に、 の左手が重ねられる。胸がきゅんと甘く痺れる。
 不意打ちなんてまだ慣れてないんだから、びっくりするよ。
「えっ?えーと、景色が綺麗な所かなぁ」
  と一緒ならどこでも良かったけれど、一応希望は言わないと困るよね。

 スカイライン途中の展望台から見る景色は雄大で、天気が良く芦ノ湖が見渡せた。
 その時、由梨からメールが来た。
『明日お茶でもしない?』
「ごめん。今旅行に来てるからまた今度ねm(__)m」
『彼氏と旅行かぁ。エッチ(≧▽≦)』
 あの子、また一人で勝手な妄想して・・・。でも泊まるってことはそういうこともアリなのかな。全く覚悟が出来てないわけじゃないけれど、今日がほんとにその日だったらどうしよう。
「そろそろ行くぞ」
「は、はいっ」
 変に意識してしまって、動作がぎこちなくなる。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、気にとめることもなく車のドアを開けてくれる。ポーカーフェイスの ってば一体何を考えているのだろう。

 旅館に着いて、部屋に案内された時は驚いた。
 私が泊まったことのある旅館なんて狭い畳の部屋に四角い机があって、窓側に椅子が置いてあって・・・。
 それに対して、この部屋は一体、いくつあるんだ?和室に洋室に、でかい机がおいてあるリビング?
 トイレは2つもあるし、ベランダには露天風呂がある。
 そして、 が仲居さんにチップが入っていると思われる封筒を渡しているのを見て私は畏縮してしまった。そんな高級な旅館に連れて来てもらえるなんて思いもしなかった。
 私は落ち着きのない子供のようにうろうろしながら部屋を探検していた。
 は慣れているのかゆっくりお茶を飲んでいる。
「先に風呂入るぞ」
「風呂??」
 飛び上がりそうになった私を見て怪訝な顔をする
「2階に大浴場があるってよ。この部屋の風呂使いたいなら使えば?俺は使わないから」
「う、うん。じゃあ、あたしも2階のお風呂に・・・」
 部屋の露天風呂なんて素敵だけれども、ガラス越しに内側から見えるじゃない・・・。
 私は大浴場に行っても隅の方でこそこそと体を洗い、広い露天風呂でヒノキの匂いを嗅ぎながらゆっくり浸かった。

 やがて夕食の時間になり、私はまた新しい体験をしてしまった。
 掘りごたつ式の広いテーブルにと向かい合って座り、食事が1品ずつ運ばれてくる。
 お品書きには10品を超える料理名が書かれてあることにびっくり。
「何、この料理の多さ?」
「こういうもんだよ。さすがに滅多には連れてこれないからな。味わって食べろ」
 確かにこんなに繊細で綺麗な料理は自分では作れそうもないし、美味しい。
 私は徐々に緊張が解れ、幸福を一緒に噛み締めながら食べ尽くした。
 食事の後、仲居さんが布団を敷いてくれている間、とテレビを見ていた。
 この後はお話して寝るだけ?それとも・・・。
 私はまた一人でもやもや考え込んでいた。あーもう、せっかく二人で旅行に来たんだから楽しみたいのに。

 仲居さんが部屋から出て行って、私は気になっていたことをに聞いてみる。
「ねえ、ここの旅館相当高いんじゃない?あたし、あんまりお金ないよ・・・」
に払わせるなんて事しねえよ。確かに学生には高いけど、バイト代全然使ってなかったから大丈夫だって」
「でも・・・」
 幾らバイト代が貯まっても、私なら一日でこんなに使おうとは思わない。やっぱり、お金持ちの感覚にはまだついていけない。
「そんな心配するなって。気になるんなら、出世払いで返してくれてもいいから。それより布団行こうぜ」
 私はに強引に手を引っ張られ、和室へと連れて行かれた。
 布団が2つ並べられてあるのを見てカチンと固まる。
「あの・・・あたしまだ眠くないんだけど」
 出来ればあなたが寝た後で安眠したいのですが・・・。
「眠くない方が出来る。それに今日はまだ一度もしてないだろ?」
「何を・・・?」
 一体どんな答えが返って来るかビクビクしながら私は尋ねた。
「何ってキス・・・」

 少し顔を傾けたまま至近距離で見つめられて、部屋が一瞬で甘い空気に変わったのが分かった。
 に手をとられて、私は物凄く緊張していた。壊れてしまいそうな程早く動く心臓。
 ゆっくりとの唇が近づいてきて私に重なった。もう何度も経験した交接。
 次第にキスが深くなり、湿った水音が静かな部屋に響いた。 の舌先が私の口腔内をまさぐり始める。
 上顎をチロチロと舐められ、くすぐったさともどかしさが心の奥にある何かを刺激する。
 私のものにしっかりと絡みつく滑らかな舌の動き。何だか頭がふわふわして全身が蕩けそうになる。
 何かいいかも・・・。このままずっとキスしていたい。
 ふぅっ・・・はぁっ・・・
 私は気付かれないように静かに溜め息を漏らす。
 男の人とこんなキスしたことないからはっきりとは言えないけど、 この人はキスが結構上手なんじゃないかなって思う。
 キスがこんなに気持ちの良いことだったなんて知らなかった。私も少しずつ感覚が大人になってるのかな・・・?

 いつも家でするキスと同じなんだけど、今日はちょっと違うって感じた。何か続きがあるっていうか。
 私の予想は的中し、そっと布団の上に倒される。 の大きな身体が圧し掛かってきた。
 の手が私の鎖骨に触れ、かすかに震えながら斜め下になぞった。
 唇に触れられることは割と平気になったのに、それ以外の場所だとぐっと身構えてしまう。
 腰で蝶々結びにしていた紐をさっと外すと、浴衣を左右にぱっと広げられた。恥ずかしくて思わず目を瞑ってしまう。
 唇が首筋を伝って徐々に下りてくる。初めて に触れられる部分がゾクリとしながら、次第に熱を帯びていく。胸元まで来ると、唇で強く吸い付かれた。
 痛・・・。何してるの?
 答えが出る間もなく、は窮屈な背中に手を回して、ブラのホックを探っていた。 きっと外そうとしているんだろう。
「ちょっと待って・・・」
 は私の声を無視して続け、すぐにホックが外れたのを感じた。
 背筋が冷やりとし、焦りが全身を包み込む。
「駄目!脱がさないでっ!」
 危うく、もう少しで取れてしまう所だったが、私はの手を握って止めることができた。

「何で?」
 のきつい視線に耐えられなくなりそうだ。
「何でって、これ以上は無理!どうしても脱がなきゃ駄目・・・?」
 私は懇願するように見つめ返すしかできない。
「は?脱がないでやるって、着衣プレイがいいのか?別に俺もいいけど・・・」
 着衣プレイって?何か勘違いしている、こいつ。
「違う違う!」
 必死で否定すると、がはっと何かに気付いた様子で言った。
「おまえ・・・まさか、エッチの仕方知らないなんてことないだろうな。医学生ともあろう者が!」
「・・・それ位知ってる。それに医学生とエ、エッチは関係ないでしょ」
「ばーか。エッチは生殖行為だし、男と女の絆を深める行為でもあるんだよ。人間にとって大事なことだろ」
 反論する私には理屈を捏ねて説教する。

 が言ってることは正しいけれど、駄目なものはどうしても駄目。
 エッチってのはお互い服を全部脱いで、ああやってやるんだろうけど、 大人になればやってる人が普通なんだろうけど・・・恥ずかしすぎる。
 私が見せるのを躊躇っている所は、生殖器であって、多くの動物の雄雌同士が触れ合わせる所。産婦人科では、内診のために見ず知らずの医者に見せることもある。
 大事なことだって分かっているけれど、人体のことを勉強して分かっているつもりだったけれど・・・。
「ごめん・・・まだ・・・」
 付き合ったらどうしてもしなきゃいけないことなのかな?
 のことは好きだけど、受け入れられない自分が悲しくなってくる。
「分かった」
 冷たく言い放ったは、私から体を離して起き上がった。
「ご、ごめんね!」
「別に謝らなくてもいいよ。やらないからって、どうってことないから」

 何とか逃れることができて油断していた私は、立ち上がったの下半身を何となく見てしまった・・・。
 浴衣の下で男性のあの場所が、はっきりと見て分かる位に、縦に盛り上がっている。
「あっ・・・」
 私が小さく叫んで固まっていると、はその視線の先に気付いたらしい。
「おまっ・・・じろじろ見るなっ!早く服直せ!」
 股間をぱっと押さえると、赤くなってトイレの方に走って行った。
 私は寝込みをまた襲われたらどうしようってドキドキしながら、が戻ってくるのを待っていたらいつの間にか寝ていて、何事もなく朝になっていた。
 それから、私とは半年もの間、何もなく過ごした・・・。

                      ◇ ◇ ◇

 あの時拒んでしまったからといって、別に冷たくされたり粗末に扱われることはなかった。
 ゴロゴロしたり、一緒にご飯を食べたり、ドライブしたりいつもと同じ。キスだってする。
 ちょっとドジな私に突っ込んでくれる、見た目には仲の良いカップル。
 けれど、私との間には見えない一枚の壁がある。それはがどうこう出来るものではなく、私が何とかしなくちゃいけないものだ。
 一人で考えていても自分の浅知恵じゃ何も解決できない。誰かに相談すれば道が開けるのかな。

 学生食堂で由梨の前に座ると、私は周りに知り合いがいないのを確認した。
「ねえ・・・ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 由梨はお気に入りのカレーライスを口に運びながら、こっちを見た。
「ん?」
「変なこと聞くけど引かないでね・・・」
 私が心配そうにするのを見て、軽く笑った。
「あたしは変な話の方が興味あるな」
 普段はお調子者だけれど、どんな小さな相談でも真剣に聞いてくれる由梨。
 私達の性格は決して似ているとは言えない。でも親が医者とかでハイソな家庭で育った同級生が多い中で、普通の家庭に生まれた由梨とは自然に親しくなれた。この子になら話してもいいかも・・・。

 私が彼と一線を重ねられないことを話すと、由梨は首を傾けた。
「別に難しく考えることないんじゃない?したくなかったらしなければいいし。さん、待ってくれてるってことは、のこと大事にしてくれてるんでしょ?」
 あっさりとした答えに拍子抜けしてしまう。
「いいのかな・・・それで」
「いいよ、 はまだお子様だもん。でも彼とよく抱き合ってたりしたら、そのうち出来るようになるかもね」
 私達、キスはあるけど、抱き合うことは少ないかもしれないなあ。
「ふーん・・・。由梨はそうやって慣れたの?」
「えっ?」
 由梨はまさか自分のことは聞かれると思わなかったらしい。動揺した彼女を可愛いと思った。

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